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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。10

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こっちを見て欲しい、と思うのは我侭だろうか。
心の底から笑って欲しい、と思うのは身勝手だろうか。

その眼差しの先に映る、たった一人になりたいから。
君を護ってあげたいから。

幸せになって欲しいから。





 誰かが、誰かに「好き」だと伝えることが、どうしてこんなに重いのだろう。たったそれだけの短い言葉。それなのに、言葉の持つ力はなによりも重い。
 それは言葉を発した方も、受け取った方も同じ。
 例え、その意味が違っていようとも。

 「…暇つぶしなら、他へ行け。」
 何度目か分からない溜息に、心底うんざりしたようにイザークは呟いた。
 自分が邪魔をしていることくらい、よく分かっている。分かってはいても、他に相談出来そうな友人が見つからない。それなのに、打ち明ける事も出来ずに、ここでこうして溜息をつくばかり。
 イザークの生活する部屋は、基地内の宿舎にある。もちろん、ディアッカの部屋もあるけれど、戦争中に留守にしたまま戻っていない。そこに移ろうと思えば出来るけれど、あんな状態を目の当たりにしてしまっては余計な気を揉むばかりだ、と思ったから未だにアスランの家に厄介になっている。
 戦争が一応の終結をみてプラントに戻ったとき、良く自分の部屋が残っていたものだと感心してしまったが、恐らくそんな細かい事まで気が回っていなかったのだろう。一度だけ戻った部屋は、随分と懐かしく感じた。
 他にする事もないのか、イザークは自分のデスクに向かって分厚い本を読んでいる。何処から見付けてくるのか、既に古本を通り越して骨董品と呼べる部類のその本を、丁寧に捲っては端から端までゆっくりと目を通している。他人のベッドを占領して溜息ばかり吐いているディアッカの事など既に思考から追い出しているのか、自分の世界に浸り切っていて、時折思い出したように同じ言葉を呆れたように繰り返す。
 「…あの、さあ…」
 ここに来て、たっぷり一時間ほど経ってから漸くディアッカは口を開いた。
 微かに視線を動かして、イザークは文字から目を放す。そう呟いたきりまだ言い澱むディアッカに続きを促すように溜息を吐いて本を閉じた。
 「なんなんだ、一体。」
 聞いてやるから言ってみろ、とばかりにイザークはデスクチェアを回転させてディアッカに向き直った。
 「…お前、好きなヤツ、いる?」
 窓の外に視線を向けたまま、ディアッカは呟いた。その言葉に、友人はあからさまに固まって絶句する。
 「…そんな余裕が何処にあったか言ってみろ。」
 しばしの沈黙の後、イザークは不機嫌そうにそう言った。
 武器を取り、モビルスーツを駆って、自分達は戦争をしていた。つい最近まで。
 誰だって必死で、自分の命を賭けてなにかを護るために戦っていたのだ。だから、イザークの言葉は正しいと思うし、理解も出来る。
 人間と言う生き物は、思考を止める事はなく。なにかに必死でも、それが途切れてしまうとまた別の何かを考えている。それは興味や好意が強いものほど優先順位が高いらしい。少なくとも、ディアッカにはそう思えた。
 だから、一人でいても誰かといても、考えてしまう。今の所、いつでも同じ事を。
 「…だよなあ…?」
 取り敢えず肯定を返して、ディアッカは苦笑した。
 「でも、今は違うワケ。そんな余裕、が出て来ちまったからな。」
 その言葉に、珍しくイザークは笑みを浮かべた。
 「…分からなくもないがな。ま、おまえの浮いた話なんか有り過ぎて、面白くもないぞ。」
 今更だ、とあっさりと言い切った。
 男女とも、友人は多い方だ。気軽に付き合った女性も、軍に入る前は結構いた。逆に言えば、本気になったことなんかなかった。本気で、真剣に誰かを想うと言う事がどういう事なのか、ディアッカには良く分からない。
 「…そうじゃねぇよ。」
 友人の指摘した事実に苦い笑みを浮かべて、溜息混じりに呟く。
 「本気で、って事。」
 その言葉に、イザークは少し考え込む仕草を見せる。その後、なにかに思い当たったように言った。
 「…まさかおまえ、今頃気付いたとか言うのか?」
 その言葉に、正直に驚いた。
 「…は?」
 間抜けな顔で聞き返すと、イザークは心底呆れたように溜息を吐く。
 「…おまえがそれじゃあ、気の毒だな。俺が見ていても分かったんだぞ?」
 こと、恋愛沙汰には疎いイザークにすらそんな事を言われてしまうと、どうしようもなく落ち込んだ気になる。そうかよ、と呟くと友人は楽しそうに喉の奥で笑った。それはそれで悔しい。
 「おまえがそんな事言い始めた、と言うことは、何らかのリアクションがあった、と言うことか?」
 正直に悔しかったけれど、諦めたようにディアッカは頷いた。
 「…けど、キラが見てるのはオレじゃない。」
 その気持ちは、恐らく恋愛感情ではない、とディアッカは思っていた。自分の気持ちはともかく。
 真面目な表情に戻ったイザークは、その言葉にしばらく沈黙してから、おまえはどうなんだ、と言った。
 「…言われてもな。」
 自嘲しながらディアッカは答える。キラに対する、一番近い自分の気持ち。それを形容する言葉。
 「…護ってやりたい、とは思うよ。」
 それが、イコール好きかと言われると自信がない。『好き』と言う言葉の意味は軽くて重い。含まれるものが広過ぎて、自分でも区別がつかなかった。
 「…ちょっと、こっちに来い。」
 唐突にイザークは立ち上がると、手招きをした。不思議に思いながらも、言われるままに近付く。
 「バカか、おまえ。」
 咎めるような言葉と共に、ごん、と言う音がして頭の上に硬い何かが降って来た。衝撃の後に、鈍い痛みが広がる。
 「…ッ痛ぇ…」
 突然の衝撃に浮かんだ涙で潤んだ視界に映ったのは、さっきまで友人が読んでいた分厚い本だった。受けた衝撃から察するに、イザークは本の背表紙で殴ったのだろう。
 間違えるな、とディアッカが抗議する前にイザークは言った。
 「…おまえが言ったのは庇護欲だろう。あいつは、おまえに護ってもらわなきゃならないほど弱くも脆くもない。向こうは本気だぞ。隣に並んでいたいと、そう言っていた。それなのに、おまえの態度がそれじゃあ失礼にも程がある。」
 一体いつの間にそんなに友好を深めたのだろうか。ディアッカの感想を他所に、呆れているのか怒っているのか判別のつかない口調でイザークは続けて、用事の済んだ本を元の通りデスクに戻す。
 「…恋愛なんて、女の子とするもんだと思ってたんだけど。」
 それは至極常識的な固定観念だ。けれど、苦笑混じりに呟いた言葉にイザークはどうだかな、と言った。
 「今時、偏見はないがな。むしろ、そういう感情を同性に抱くからこそ、人間と言う生き物なんだろう。」
 思考回路の複雑な、人間ならではの感情だと言い切って。
 「…まあ、俺としては尊敬に値する人間だと思うぞ。キラ・ヤマトは。」
 そう続けて、何かを思い返すように笑みを浮かべる。
 ディアッカの知らないキラの姿。それを思い返す友人に、悔しいと思っている事に気付いて驚く。多分、それが本心。ディアッカの、キラに対する気持ちの。
 やっと、少しだけ理解出来たような気がする。
 「…悪かったよ。」