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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。11

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何がしたいの、と聞かれて、答える事が出来なくて。
本当に自分がしたい事はなんだろう。
成すべきことが、なくなった世界のなかで。

あなたは、何を見ているのだろう。
君は、誰を見ているのだろう。

想う事は自由で。
たったひとつ望む事。

傍にいて、ずっと隣にいて。
それを。
それだけが。

行きつく先はきっと同じだと、信じているから。


>>>夢


 視線の先に映る、赤い制服。
 今日こそは、とキラは重い溜息をついてそれに手を伸ばす。借り物のそれは、恐らく自分を嫌っているどころか、殺したい程憎んでいる筈の人のもの。名前しか知らない、キラにとっては色々な意味であまり近寄りたくはない人になっている。
 それでも、きちんと話をしてみたいと思う自分もいて。
 自分で返しに来い、と伝言を貰ったから、きっと相手も少なからず同じ事を思っている筈、と納得させながらハンガーから外した上着を丁寧に畳んでいく。
 その人はザフト軍の基地内にいる、と教えてもらった。面倒をみてくれる青年に送ってもらって、建物の前に着いたのはいいけれど、周り中を緑色の制服を着た人が歩き回っていて落ちつかない。
 毎日格納庫に来るからそこで待っていればいい、と言われたけれど、自分を良く知る人達にどんな顔をしていいのか解らなくて、それならまだ知らない人の中で我慢している方が幾分ましかな、と思った。それも少しだけ考えが甘かった、と後悔し始めた頃に、ゲートで何事か話していた青年が戻って来てその部屋まで案内してくれた。
 「…いいんですか?」
 それはずっと疑問に思っていた事。廊下を歩きながら隣にいる青年を見上げて呟くと、少しだけ困ったような優しい笑みを浮かべる。
 戦争が終ったとはいえ、キラはザフトの軍人ではない。それどころか、地球連合軍に籍を置いていた人間だ。それなのに、大して咎められる事もなく、本拠地とも言える基地内に入って、しかも個人の宿舎にまで行こうと言うのだから、当然そう簡単な事ではないと思っていた。それに反して、あっさりとここまで来てしまったのだから拍子抜けするのも当然で。
 キラの言葉に、青年はいいんですよ、と返した。
 「先に、連絡来てたみたいですよ本人から。」
 近い内に、キラが来たら通してやってくれ、と。
 こちらを尋ねる事が分かっていたのだろうか。キラはその言葉に俯いて、緩く溜息を吐いた。
 「ここです。」
 立ち止まった扉の前で、顔を上げる。在室は確認してあるから、あとは自分の足がこの先に踏み出せるかどうか。何時の間にか抱き締めていた赤い制服を握る手に力が入る。
 「…大丈夫…」
 小さく言い聞かせて、その先へ。


 不機嫌そうだったっけ、とぼんやりと思った。
 夢をみていた。正確には、少し前の出来事だから、思い出していた、と言った方が正しい。
 薄暗い室内を見回しても、視界はぼんやりと霞んでいて、上手く映像にならない。軽くて柔らかな上掛けは確かに温かい筈なのに、身体が震えていた。
 寒い、と言う感覚だけが酷く鮮明だった。
 自分の手で触れた自分の頬は、とても寒いなんて言う感覚とは無縁なほど火照っていると言うのに。
 不意に視界が影って、額になにかが触れる。冷たいのに、しばらくするとジワリと広がる暖かさは、人の手のひら。何処かで、記憶と重なる光景。辛かったり苦しかったりして、何度も目を覚ますと、子供をあやすように撫でてくれた手のひら。
 ぼんやりとしたままの視線を巡らせると、微かに映る金色の光。
 「…ょ…さ…?」
 喉の奥に引っ掛かるような掠れた呟きは、それでもこの手のひらの持ち主には聞こえたらしい。一瞬、動きが止まる。そうして、ゆっくりとそれは離れていく。
 違う、と思った。
 もうあの人はいない。この世界の何処にも、キラを慰めて、優しく撫でてくれた人はいないのだ。縋る事を許してくれた大人は、遠い所に行ってしまって。
 不安と恐怖が広がる。いかないで、と言ったつもりが、喉の奥が引き攣ったように嫌な音を立てただけで。
 身体の震えは収まらない。
 違う。この人は、もっと大切な。大好きな。
 力の入らない腕を必死で動かして、離れて行く人を引き止めるために霞んだ視界の中で震える指先を伸ばして。
 音のない声で、それでもその名前を呼ぶ。
 「…ディアッカ…っ」
 離れて行く事が恐くて。手の届くところにいて欲しくて。触れた指先を、躊躇いがちに、それでも掴んでくれた事に安堵して。
 緩く溜息を付いて、何度か瞬きを繰り返して、漸く視界にその姿を納める。
 少しだけ悲しそうな表情をしたその人は、キラを覗き込むようにして囁く。
 「…ここに、いるから。」
 キラがなにも考えなくとも、勝手に反応した心が眦から雫を零し始める。それを柔らかく拭う指先の感触に、目を細めて。
 恐くて、寂しくて、ひとりはもう嫌だから。
 ただ、うわごとのように繰り返す言葉。
 「…傍に、いて…」
 ひとりに、しないで。
 そうしてまた、意識は闇に溶けて行く。


 生き物の体温、と言うものは、どれほどの安心感をもたらしてくれるのだろう。
 傍にいて、と言って伸ばされた細い指先は、力なく何度も摺り抜けてしまいそうになる。その度に、握る手のひらに力をこめて、冷たいそれを少しでも暖めるように包み込んで。
 手を繋いでいる、ただそれだけのことが、目の前で眠るキラにとってはなによりも安心する事らしい。
 母親の腕に抱かれた赤ん坊が泣き止むのに似ている、と思った。
 隣にいる誰かの体温は、それを本能が覚えているから安心するのかも知れない。
 特にキラは、それが顕著だ。その出自が分かっていれば、当然かも知れない。
 庭で倒れてから、随分と時間が流れていた。浅い呼吸を繰り返して、高熱に喘ぐ姿をずっと見ていた。
 なにも出来なくとも、傍にいて、手を繋いでいる事くらいは出来る。
 痩せ細った手首を見る事が辛くとも、そこにいることしか出来ない。骨の感触ばかりが目立つ腕や、シャツの襟元から覗く鎖骨の浮いた身体が悲しかった。
 それがディアッカの勝手な感想でも、意識の混濁したキラには伝わる事もなく。時折目を開けてはいるけれど、その瞳は何処も見てはいない。誰も見てはいない。
 否、見ているのはきっとたったひとりだ。今はもういない、その人の姿を自分に重ねて、幻を追っているだけ。それは、掠れた呟きに顕れる。
 その言葉に、心の奥が痛んだ。
 たとえ、キラの心を知っていても、まだ子供の自分では敵う事もなく。それが悔しくて、悲しくて、そんな風に暴走する感情が表に出ないように、必死で押し留めていた。
 これが、本気なのだと。
 世界がどうなろうと、知った事ではなかった。ただ、目の前にいるたった一人が大切で。
 なんて勝手な生き物だろう、と思う。
 自分の犯した罪を償う為ではなく、たった一人を助けるために、その命を支えるために生きて行こうと思った。沢山の人を助ける、なんてただの偽善で。本当は、苦しんで傷ついた、ぼろぼろの心を支えていたいだけで。
 傍にいて、隣に並んで、支えになれたら。同じ目線に立つ事が出来たなら、きっとそれでいい。それ以上は、誰かの血にまみれた自分には過ぎた望みだ。