OP 01
届かなかった声や、零れて行くばかりだった命にばかり気をとられて、伝える事の出来た人もいるのだと言う事を忘れていたような気がする。
「…助けた…?」
ゆっくりと、顔を上げる。微かに浮かんだ涙に滲んだ視界のなかで、その人は柔らかで、何処か悲しそうな微笑を浮かべていた。
「やっと気付けた、有り難う…息子の、最後の言葉だ。搬送されてきた時には重体でね、それを君に伝えてくれと言って、息を引き取った。優しい子でね、私が軍にいたから、志願した。いつからかは分からないが、何かがおかしいと思っていたんだろう、君のお陰でそれに気付けたと、安らかな顔で逝ってしまった。それから私も考えたよ、何が正しいのか、何と戦うのか、と言う事を。私に出来る事なんて、たかが知れている…せいぜい、エターナルの出航を助けた事くらいだ。あの艦はいずれフリーダムのパイロット、君につながると信じていたからね」
そうすれば伝える事が出来るかも知れない、とその人は続ける。
「…私からも礼を言うよ。息子の心を救ってくれて有り難う」
そうして、深く頭を下げる。
なにも言えなかった。
静かにそれだけ告げた男性は、俯いたままのキラを残して部屋を出て行く。
誰かに、大丈夫だと言って欲しくて。恐る恐る伸ばした指先で、震える肩を抱き締める。
流れた時間は、短くはないけれど長くもない。目を閉じれば鮮明に甦る記憶は、未だに夜毎キラを苦しめる。
がしゃん、となにかが壊れる音がした。のろのろと視線を上げると、その先に今までベッドサイドのテーブルに乗っていた筈の花瓶が床で砕けている。活けられていた赤い花が散らばる様は、まるで。
掠れた悲鳴を上げた。
それを視界から隠すように、枕を投げて毛布を被って。
ただ、その記憶を閉じ込める為に、きつく目を閉じる。
誰かが立てる足音すらも、得体の知れない恐怖を呼ぶだけ。
ごめんなさい。
小さな呟きは、幾度も繰り返される。
「…ごめんなさい…助けて、ごめんなさい…っ」
優しくて、暖かな手のひらを持つその人に。
「…傍に、いて…」
こんなに、求めてやまない。けれど、それは叶わない。
こんなに。