OP 03
「いいんだよ、それで」
メールくれるし、と言って微笑うと、アスランはそうかと呟いた。
ここに来た時に必ず、そう訊ねる。答えはいつも同じだと、よく解っているはずなのに。
「…アスランは、心配性のまんまだね」
その言葉に、親友はそうだな、と言って少し困ったように笑った。
遠くなる車の影を見送って、夕暮れが映る空を見上げた。
けしてそう高くはない筈のそれ。けれど、何処までも広がっているような錯覚を起こす。
軽く頭を振って、ゆっくりと呼吸をした。
「…会えなくても、大丈夫だから」
小さく呟いて、冷たくなった指先を擦り合わせて、空に消えて行く呼気を眺める。どのくらいそうしていたのか、夕暮れの景色は何時の間にか菫色になっていて、随分暗くなっていた。靴底を通しても伝わる冷たさに、いい加減に中に入ろうと振り返ると、扉の前に彼女は静かに佇んでいた。余りにも唐突に現われた人間に、キラは一瞬身を硬くする。
全く気配もなくそこにいたのは、まだ少女と言って良い外見の、つい先日ここに来たばかりの患者。
「…どう、したの?」
何度か見かけた事はあっても、会話をするのは初めてだった。恐る恐る声を掛けると、少女はじっとキラを見詰めたまま、微かに頭を揺らした。全くの無表情で。
不意に、背筋を駆け上がったもの。
恐い、と言う感情。
目の前に立つのは、自分よりも幼い少女。それでも、その虚ろな瞳が、言い知れぬ不安を掻き立てる。
重苦しい沈黙が流れる中、唐突に少女は微笑を浮かべた。けれどそれは心和むようなものではなく、ただ、酷く壊れた笑顔。
固まったままのキラを他所に、少女はあっさりと扉の向こうに消える。その姿が見えなくなってから、知らずに詰めていた息を吐き出した。気温はとても低いのに、嫌な汗がじっとりと首筋を濡らしていた。
「…なに…」
掠れた声が零れる。
名前も知らない少女。けれどそれは、何処か覚えがあった。
戦場で、心を狂わせてしまった人達と、同じ顔。それを、思い出してしまった。
声にならない悲鳴を上げて、キラはその場に蹲る。
ただ、自分自身をきつく抱き締めている事しか出来なかった。