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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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OP 07

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 ようやくお出ましですのね、と彼女は言った。
「ドクター、アウスレーゼ。いいえ、プラント広域指名手配犯ケネス・アウスレーゼ」
 静かに、けれど凛とした声は事実を告げる。
 何を言われても緩やかな笑みを崩さない青年に、キラは見覚えがあった。少女の、主治医だ。
「どうせならプロフェッサーとお呼び下さい。光栄ですよ、ラクス・クライン」
 あなたにご記憶いただけるとは、と姿を変えた歌姫に優雅な一礼を贈る。そうして、キラの方に向き直った。
「…さて、キラ君。単刀直入に、僕としては君が生きていてくれるほうが有難いんだよ。こちらのお嬢さんが不満がるかもしれないけれど、後々、ご満足いただける予定だしね」
 その言葉に、銃を構えたままの少女は軽く眉を上げる。ちょっと、と言う呟きに、青年は緩やかな笑みを以って応えた。
「…どうして、僕なんですか」
 問い掛けずとも、答えはキラの中にある。それでも言葉にしたのは、解らない事があったから。その言葉に、少女は冷たく目を細め、青年は困ったねと言う呟きを零した。
「…アンタ、なんにも知らないのね。どうしてこれが完成体なのよ、理不尽だわ」
 吐き棄てた言葉は、見かけを裏切ってひどく大人びていた。
「そうかな。だからこそ、楽しいじゃないか」
 青年は笑って少女の頭を撫でる。最低、と呟いた少女はそれを振り払い、早くしてよと銀色の銃を揺らした。
「君は、君自身にどれほど価値があるのか知っているのかなぁ…ああ、君でも知っていることはあるよね」
 すい、と細められた瞳に、背筋が粟立つ。
「…君の生まれた場所。コロニー・メンデルのことくらいは、ね?」
 どくり、と波打つ鼓動が煩い。
 自らの手で何もかも壊してきた場所。これで最後だと、思った場所。
「君のおかげであそこにはもう何もない。尤も、それくらいで僕の研究が揺らぐようなことはないから、今更どうでもいいことだ」
 馬鹿にしたように笑った青年は、知っているかい、と続ける。
「君が完成体としてあそこから出てくるまでに、何人もの兄弟が生まれていた。失敗作としてね。その中の一人が、彼女だよ」
 どう見ても、十歳前後の容姿と、体型の少女。キラより前に人工子宮を出たのだとすれば、年齢が合わない。
「…そんな、嘘…」
 膝が震える。
 銃を握った手のひらは、冷たい汗で湿っていた。
 おやおや、と青年は肩を竦める。
「失敗作だと言っただろう?彼女の成長はここで止まってしまった。だから失敗作、なんだよ」
 青年が失敗作と口にするたび、少女の瞳に憎しみが宿る。
 だから、彼女は躊躇いなく引き鉄を引くのだろうか。キラを、憎んでいるから。
「まあ、おしゃべりはここでなくとも出来るね。君がおとなしく来てくれれば、これ以上ここには手を出さない」
 どうする、と促されてキラは言葉に詰まった。
 ぱらぱらと崩れ落ちる欠片は、あまり時間を持たせてはくれない。長く建物の中に居たら、ラクスやマサキも危険だった。だからと言って、このまま言うなりになるわけにはいかなくて。
 何とか、彼女たちだけでも外に出さなければと、銃を握る手のひらに力を籠める。抵抗する意思に気付いたのか、少女が険しい眼差しでキラを見据えた。
 崩れた壁の向こうには沢山の人がいるはずなのに、世界中でこの場所だけ切り取られたような、ぴんと張った空気。
 なるほど、と唐突に割り込んだのはまた別の声。
 一斉に集まった視線の先に、漆黒の長い髪が見えた。
「…生きていたとはな。こちらも思わぬ収穫だ、ケネス・アウスレーゼ」
 微かに滲むのは、悦び、だろうか。
 崩れた壁の向こうから姿を現したのは、黒髪の青年。黒いライダーズスーツに身を包んだ青年は、手にした銃を向けるでもなく淡々と言葉を紡ぐ。
 ケネス・アウスレーゼ。コロニー・メンデルにおいて、高度遺伝子研究機関に所属。当時ヒビキ博士によって極秘に研究されていた人工子宮計画の実験記録と処分予定の実験体一体を連れて逃亡。
 以後、各地で遺伝子研究機関に紛れ、実験記録の持ち逃げと、非人道的な実験を繰り返し、広域指名手配犯となる。
「お前が消えて、直後にバイオハザード、だ。何もしていなくとも、十分怪しまれる理由にはなるな」
 言いながら、青年はゆっくりと崩れた室内を進む。
 思わぬ闖入者に沈黙していたラクスが不意に顔を上げた。それに気付いたのか、青年は小さく頷く。
「依頼により、キラ・ヤマトの護衛及び搬送に来た」
 クライン議長殿、と慇懃に言った青年に、ラクスは立ち上がる。
「…どの道、あなたにキラも、あの機体も渡せません。大人しくなさるのはあなたの方ですわよ、ドクター」
 ラクスの言葉に、金髪の青年は困ったな、と呟いた。相変わらず口元に浮かべた笑みはそのままに。
「ここで君を連れて帰らないと僕の研究に支障が出るんだけどねぇ。まあ、後で死体になってからでもいいか」
 君の価値は、必ずしも君の人格によるものではないからね。
 さらりとそう言って、青年は軽く身を引いた。
「…そうそう、そっちの君。見覚えのある顔だね?関係者かな?」
 急に水を向けられた黒髪の青年は、微かに顔を歪めて口を開く。
「…俺も、失敗作の一人だからな」

作品名:OP 07 作家名:綾沙かへる