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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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OP 08

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何が辛いのか、とか。
何が哀しいのか、とか。
するすると、抜け落ちて行くような気が、した。
残ったものはだたひとつ。
 
きっと、初めて。
心の底から、こんなにも。
 
あなたに。
 




 あなた方では、目立ちすぎますもの。
 そう言って、彼女は微笑んだ。
 確かにそうなんだけどな、と苦笑を零す。
 病人とは言え、たった一人の民間人を移動させるのに軍が出る訳にはいかない。そうまでして護らなければならない理由が伏せられていて、戦時中から現在もなお軍に在席する上層部のなかでも、恐らくその人物の正確な「価値」を知るものなどいないのだろう、と思った。
 尤も、そんな言葉で括れるほど彼は自分にとって軽い存在ではなくて。
 出来得る限りの事をしてやりたいと思う。
 たくさん、傷付けてしまったから。傷付いている事を、知っているから。
 幸せになって欲しいと、願っているから。
「…準備、出来たぞ」
 広く名を知られている貨物業者の制服に身を包んだ同僚が後ろからそう言った。ああ、と言いながら振り返って、普段とはかけ離れ過ぎた格好に一瞬絶句する。
 なぜかは分からないがディフォルメされたゾウのマークがプリントされた作業服は、堅い軍の制服をきっちり着込んでいる同僚と結びつかない。自分が同じ格好をしているにも関わらず。
 何か文句でもあるのか、と眉を寄せた友人に慌てて首を振って。
「…いや…珍しいものを…」
 それが、限界。
 思わず吹き出したら、イザークは一瞬で怒りを顕わにする。
「お前…ッ同じ格好してるって事忘れるなよ…!」
 着替える、と言い出しかねない勢いの友人に、すまないと言っても目が笑っているから説得力がない。
「…仕事だからな」
 あとで覚えてろよ、と唸るように続けて。
 このやりとりを終始無言で聞いていた部下の一人は、優秀な筈の隊長二人が指揮を取るこの作戦に少しだけ不安を覚えていた。









「…あれが姉だと言うなら、さしずめ俺は兄に当る、ということか」
 くつくつと青年は喉の奥で笑う。
「まあ、どうでもいいな、今更だ」
 それより仕事をさせてくれ、と青年は言い、その言葉にラクスは頷いた。
「ええ、お願い致しますわ。この人の処分は…上手く彼らが」
 今はお任せ下さいますわね、と彼女は言い、青年は好きにしろと呟いて。
「…何よ…ッ」
 唐突に少女は言葉を発する。終ったことになんかしないわ、と続けて。
「私は、私には終ってなんかいないのよ…ッ」
 銀色の銃口がキラを捉える。足許に転がっていたコンクリートの破片を拾って投げるのと、青年が発砲するのはほぼ同時だった。コンクリートの破片が少女の手に当って銃口が逸れ、放たれた銃弾は少女の肩を抉って行く。それでも少女は踏み留まった。既にその手のひらから銀色の銃は離れていても、キラを睨み続けて。
 耐え切れなかったのか、壁の一部が崩れ落ちた。それを合図に、ケネスと呼ばれた金髪の青年は緩やかな笑みを浮かべてまたね、と言った。
「まあ、いないと困るし命は惜しい…行くよアンジェラ」
 あっさりと踵を返した青年と、激しい憎しみを宿した赤い瞳。そればかりを強く記憶に焼き付いていた。
 
 ここはもう保たない、と誰もが理解していた。それでも、崩れた壁の下敷きになった少年を引き摺り出した。
「…マナヤ…」
 そうして、後悔する。誰の目から見ても手遅れだということは明確だった。血塗れの少年の薄く開いた唇からは、絶えず細い呼吸の音ばかりが零れる。
 こんなに、懸命に生きようとしているのに。
「…ごめん…ごめん、マナヤ…ッ」
 巻き込んでしまったのは自分の所為だ。また、無関係な人が死んでゆく。未来だと言ったはずの存在が。
「…キラ…」
 マサキを抱き締めたまま、ラクスが静かに声を掛ける。あまり時間がありません、と続けて。
 それでも、動けない。
 小さな手のひらを握り締めて。
「……ラ…?」
 微かに、少年は言葉を零す。
「マナヤ…」
 弱い光を湛えた瞳が、キラを捉えて笑みを浮かべる。ホントはね、と少年は細い声で続けた。
「…とうさんも、かあさんも、いない…もう、誰もいなくなっちゃう…だ…」
 戦争で、死んだ。
 だから、まだ小さな弟を守る。
 かあさんと、約束したから。
 でももう、約束出来ない。
 欠片で零れる言葉。そのひとつひとつは、とても弱くても。
 その願いは、とても強い。
「…から、キラ…マサキ……と」
 マサキ、頼むね。
 それを最後に、幼い命は零れ落ちて行く。
 

 どうして、とキラは知らずに呟いた。
 何も出来ない。なにも出来なかった。
 引き摺られるように建物を出て、身体は現実に戻って来ても。
 後ろで、大きな音を立てて限界を超えた建物が崩れ落ちても。
 なにも聞こえない。
 ただ、己の無力さを突き付けられて、黒く広がって行くもの。
 絶望。


 単独犯とは恐れ入る、とイザークは零す。
「しかも見事に逃げたあと、だな」
 残されていたのは、血の着いた子供のワンピースと、テーブルに出されたままのティーセットだけ。これでもか、と言うほど完璧に、なんの証拠も残ってはいない。元々の持ち物が少なかったのか、クローゼットもデスクの引き出しもほとんど使われた形跡すらなく、備え付けのデスクトップマシンの中は真っ白な状態にリカバリされていた。
「…で、港の方はどうなんだ?」
 封鎖は完了しています、と言う部下の返事に、無駄だと知りつつも室内の捜索を命じて部屋を出る。
 廊下に採られた窓の向こう、今だ黒い煙を上げる崩れた建物を遠巻きに見る群集と、友人の姿を見つけた。その隣りにいるのは。
 視線を投げると、それに気付いたかのようにキラは顔を上げた。濃紫の瞳は虚ろに見開かれていて、なんの感情も映していない。背筋を、冷たいものが滑り落ちるような感覚を覚える。
 戦争が終ってまもなく初めて顔を合わせたとき、やはり彼は虚ろな表情をしていた。けれどそれは純粋に疲労から来るものが大きかったように思う。だから、その時とは違う。強いて上げれば。
「…あの時…か…」
 ほとんど無意識に、自分の顔を片手でなぞる。かつてあった筈の傷跡は、もうないけれど。
 今、何も見えていない瞳でイザークを見上げるキラは、最初に傷を貰った時と同じ感覚を纏っていた。
 アスランではダメだ、と思った。すぐ傍にいる筈のラクスでもなく、今この状態のキラを、世界に取り戻すことが出来るのは。
「…全く、やっかいな事になる…」
 溜息を吐いて、変装の為に纏めて括ってあった銀色の髪を開放する。外されることのない空虚な視線を無理矢理引き剥がして、イザークは窓の傍を離れた。
 
 予め話を通しておいたゲートからコロニー内に入ると、大騒ぎが起きていた。孤児院が爆発した、と言う情報だけが駆け巡り、その隣りの医療施設がどうなったのか、全く判らなくて。
 すぐに港の閉鎖を命じて、数人の兵士達と共に現場に向かった。
作品名:OP 08 作家名:綾沙かへる