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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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OP 12 Over the world

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まだ、始まってない。




 そこは、暗くてとても辛気臭いところ。目を閉じていても、開いていても、大して変わらない景色。
 どのくらい時間が経ったのか、なんて、出される食事の数でくらいしか分からない。そもそも、いくら健康そのもので育ち盛りと言っても、こうなにもしていなくては余り空腹も覚えない。
 薄暗い、代わり映えが無くて殺風景な景色のなかで、変化があるとすれば。
「…ゼータクもの」
 不意に響いた声は、まだ歳若い少女のもの。くっきりと眉を寄せて、半分程しか手のついていないトレーを見てそう言った。
「…悪かったな」
 ちらりと少女に視線を投げて、また壁に戻す。あからさまな溜息が聞こえて、鉄格子の下からトレーが引き摺り出される音がした。今度から半分にするわよ、とぶつぶつ言いながらトレーを回収する少女は立ち去りかけてぴたりと足を止めた。
「…あんた、何したいわけ?」
 場所柄、よく響く問いかけは恐らく自分に向けられたものだ。けれど、意味が良く掴めない。
「はぁ?」
 この薄暗くて狭い世界しか許されていない自分に、何が出来るというのだろう。何を、望んでいるのだろう。間の抜けた返事に少女はああそうね、と一人呟く。
「何が、したかったわけ?」
 振り返ってどこか諦めたように微笑う少女に、返す言葉が見つからない。沈黙に軽い溜息を残して、少女は今度こそ閉じられた空間から出て行く。
 静寂が支配する場所で、投げられた不思議な問いかけだけがぐるぐると回っているようだった。

 唐突に、大きく部屋が揺れた。いつの間にか慣れてしまった振動は、攻撃を受けたときの衝撃。
「…マジかよ…っ」
 またか、と小さく悪態を吐いて、左右に揺れる部屋の壁で身体を支える。相変わらず悪酔いしそうだな、と思いながら、この状態も何度目だろうと考えた。
 戦闘状態にあるのだということはすぐに理解出来る。もとより、艦内放送で第一戦闘配備、なんて流れれば嫌でも理解せざるを得ない。
 オーブを出て、アラスカに向かうのだと思っていたし、多分その通りだろう。また部屋が大きく揺れた。
「冗談じゃない」
 ちったあここにいる人間のことも考えろと言いたくなった。
 攻撃を仕掛けているのは恐らく自分が今までいた部隊。あの人はなんとなくしつこい気がするし、復讐に燃えていたイザークもいるはずだ。
「…そういえばオレ、あっちではどういう扱いなんだろな」
 ここにいることを知っているはずがないからこうも遠慮なしなのかと思えば、なんとなく納得出来た。おそらく行方不明という都合のいい扱いで放っておかれたままのはずだ。
 唐突に始まった戦闘は、また唐突に終わったようだ。部屋が揺れることがなくなり、慌しかった艦内が静かになる。やけにあっさりと戦闘状態を脱したことを考えると、攻撃を仕掛けてきたのはクルーゼ隊ではなく別の部隊だという結論に突き当たる。そう簡単に獲物を逃す人ではない。
「…まあ、逃げられてんだけどな」
 だから今ここに自分はいるのだ。
 ナチュラルだからと舐めてかかったら痛い目を見た。そのツケを払わされているような気がする。
 最初にヘリオポリスを秘密裏に襲撃したところから、いったいどうやったらこんな場所で特に何をするでもなくぼんやり過ごしている自分が想像出来ただろう。
 投降するくらいなら死を選ぶ、なんてのはナンセンスだ。そこまでザフトや上層部に義理立てすることもない。一瞬頭を過ぎった父親のことは、この際考えないことにした。行方不明だという報告は行っているだろうけれど、いずれ自分で連絡すればかたがつく。
 だからあの時、自分の命を最優先しただけで特にその先は考えなかった。軍人である以上、扱いは「捕虜」になるかな、くらいで。知識として学んできた捕虜の扱われ方、条約、そんなことは本当にかけらでした思い出さずに、とにかく死にたくなかっただけなのだ。
 だからそれ相応の扱い方をされるのかと思えばまるで自分のことなんてほったらかしで、おかげで酷い目にあったりもした。
 そのとき初めて、自分が深く考えずに引いた引き鉄が、誰かの憎しみを生むとのだいうことを目の当たりにした。

何のためにあの場所に立ったのだろう。



「なあ、ストライク、どうなったんだ?」
 その単語を口にしたとたん、少女の瞳が険しくなった。
「…あんたが、それ聞いてどうするのよ」
 ひんやりとした空気が、更に下がったような気がする。滲み出るのは憎しみ、だろうか。
「…別に」
 気になっただけだと、気圧されそうになる心で精一杯の虚勢を張る。
 そこまで与えられた課題を簡単にクリアしてきた自分たちにとって、初めて敗北を突きつけられたもの。どれだけ足掻いても届かない、強さ。それを倒したい、と思った自分は、ゲームに熱中する子供のようだった。戦争をしていて、その真っ只中に立っているということでさえまるで現実味がなかったのだ。自分の頭で思考する、という作業を放棄していたのだから当然だった。
「…墜ちたわ」
 睨み付けていた視線を外した少女は、床を見つめてそれだけを告げた。その言葉は、思ったよりも大きな衝撃となった。
「…マジで…?」
 心のどこかで、あの機体が墜ちる事はないと思っていたのかもしれない。そうすれば、ずっとアレを追っていける。目指して追い越すために、それだけを目標にしていろと言われれば至極簡単なことだったから。
 まるでゲームだ。
 ストライクに限らず、モビルスーツを動かしている人間の命が消えるのだということを、たった今知ったかのような衝撃。
 まだ死にたくないと願った自分。
 生きて帰って来いと祈る人。
 ナチュラルとコーディネイター、それを願い、祈ることは。
 何が違い、どこが違うのか。
「…っきしょ…」
 それまで信じてきたもの、叩き込まれてきたものが壊れていく。
 仲間が落とされ、その命が消えていくことに覚えた怒りや憎しみと、少女が見せた憎しみの、どこが違うのか。
 それを考えたことのなかった自分。考える必要がないと教え込まれて、それを盲目的に信じていた自分。
 いまさら、そんな基本的なことに気付いた。

 分からなくなった。
 偏った情報だけを鵜呑みにすると、大きな間違いを起こしてしまうのかもしれない。仮定形ではなく、もしかしたらすでに手遅れなのかもしれない。
 硬いベッドに腰掛けたまま、ひたすら考える。今、自分がどうしたいのか。今までしてきたことはなんだったのか。これから、どうすればいいのか。
「…何がしたいの、か…」
 本当に、どうしてザフトに入ることを決めたのだろう。思い返してみても、これといって理由が見当たらない。多分、父親が評議会にいるという体面もあっただろうし、何よりもそのときの生活が退屈だと思っていたから。どんなに表面ではコーディネイターのため、と言い繕っても、きっと本心はとても下らない子供じみた虚勢だ。
 目的もなく、言われたことに対して結果を出していけばいい。そうすれば褒めてもらえる。
「くっだらね…」
 ごろりと硬いマットに背中を預けた。
 することがないのも事実だし、目標としていたものも見えなくなった。
作品名:OP 12 Over the world 作家名:綾沙かへる