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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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OP 12 Over the world

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 敵だと信じていた人たちが、自分と何も変わらないことを知った。
「…どうすっかな」
 それを見出すための時間は、あとどれくらいあるのだろう。


 釈放だって、と少女は言った。
「もう、地球軍辞めたから。乗っけといても仕方ないし、理由もないって」
 赤いパイロットスーツが投げられて、そっけなく扉は開く。
「…は?」
 ちょっと前まで酷い戦闘をしていた。それはもう鉄格子に?まっていなければならないほど。それが収まったかと思うと、どこかに向かってまた移動していたらしい。
 相変わらず食事を運んでくれる少女はろくに会話を成り立たせようとしてくれないし、他にこの部屋の外の状況を知る術もない。知りたい情報が得られない、という状況は、思いの外苛々するものだと心底思い知った。
 いい加減に少女の来るタイミングも分かりきっていたから、いつもと違う時間に現れた姿に微かに心の奥がざわめいた。何の変化もなくただ流れていくだけの時間が終わりを告げてくれるのならば、尋問でも何でもいい、と半ば自棄になりかけていた頃。
「ちょ、何だよそれ…っ」
 散々待たされた挙句に状況も掴めないままもう好きにしていいと言われても、混乱するだけだ。
 けれどそんな切実な抗議は綺麗に無視され、少女は踵を返す。引き止めた腕は、思いの外強く振り払われる。
「…何よ?」
 まだなんかあるの、と睨まれて。
「…お前、どうすんだよ?」
 深く考えずに零れた言葉に少女は何をいまさら、という表情を見せ、軽く溜息を吐いた。
「あたしは、この艦のモビルスーツ管制担当よ。持ち場に戻るに決まってんでしょ」
 あんたはさっさと避難したら、と少女は再び歩き出した。これから、戦闘になるのだ。
 故障したままこの艦にあるはずの自分が操っていた機体はどこにあるのだろう、と不意に思った。遠くなりかけた背中にそれを聞いたら、少女は眉を吊り上げて「アレはもともとこっちのもんでしょ!」というキツイ一言が返ってきた。
「…何なんだよ一体…」
 わけわかんねぇ、とようやく包帯の取れた頭を掻き回すと、通路の向こうからねえ、と少女が半分振り返って尋ねる。
「何がしたかったのか、見つかった?」

 胡散臭そうな視線に追い立てられるように外に出る。真っ青に晴れ渡った空は、どのくらい久し振りなんだろう、と思った。見上げた先は高く、広い。
「取り敢えず…まだ地球ってことだよな」
 オーブにいるのだと、艦内の会話を拾いながら理解した。何があったのかはよく分からないけれど、アラスカで軍を抜けたこの艦は地球軍とザフトの追撃をかわしながらこの国に辿り着き、今また戦闘に出ようとしている。戦う相手は地球軍の艦隊だ。
 オーブはプラントでも有名な国だった。コーディネイターを排斥しないナチュラルの国。永世中立を掲げ、事実今までそれを実践してきた。かつてこの国に潜入したとき、皮肉をこめて「平和の国」だとからかったことがあったけれど、今もなおその理想は続き、それを守るためにこの国は、人々は戦うことを選んだのだということを知った。
 遠く、水平線の上には地球軍の艦隊がずらりと並び、迎え撃つためにオーブ軍も配備を固めている。驚いたことに、地球軍のものとはまるで違うモビルスーツがあった。頭の片隅で、一機ぐらい残ってればなあ、なんて考えが浮かんでは消えていく。それを手に入れたとして、自分はどうするつもりなのだろう。
「…ザフトに戻…っても、この機体じゃ認識してもらえないか」
 思わず音になって零れた言葉に、自分がもうザフトに戻るつもりがないことを自覚した。
「さてさて、どうしたもんかな」
 考え事をしながら歩いていると、いつの間にか見晴らしのいい高台に出た。高台というよりは、崖っぷちだ。まるで今の自分の立場を表しているようでおかしい。
 突風が吹きぬけて、その先を幾つもの機体が駆け抜けていく。目を凝らすと、遠くに見えていた艦影が次第に近付いていて、赤い爆発が空中に広がった。
「始まったのか…」
 幾分遅れて響く低い爆発の音。振動が空気を伝わって、爆風が届いた。目を閉じた一瞬後に、きいん、と空を裂くスラスターの音。何だろう、と視線を投げた先を、白く輝く機体が駆けていく。
「…なんだ、アレ…っ」
 見たことのないそのモビルスーツは、たった一機で恐ろしいほどの勢いで敵を落として行く。正確にマニュピレーターだけ、歩行機能だけ、スラスターだけを破壊して。その技量の高さに、絶句した。同時に、どこかで見たことがあるような。
 首を傾げた時、港で火の手が上がった。地響きが伝わり、その大きさにずいぶん戦場が近くなったことを知る。先ほどまでいたはずの白い艦も、港を出た先で戦闘に入っていた。
空いた港に並んで懸命に迎撃する機体の中に、見慣れたモビルスーツを見付ける。墜ちた、と聞いたのはいつのことだっただろう。
「…ストライク…」
 墜ちたんじゃなかったのかよ、と呟く口元には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。その動きは自分が記憶しているものとは明らかに違っていても。
 ぞくぞくとした高揚感には覚えがある。戦闘に出る前はいつもそうだった。
「…結局、ダメか」
 それしか出来ない。
 結論としては、自分がしてきたこともこれからすることも変わらない。モビルスーツに乗って、戦うことだけ。
 モルゲンレーテの格納庫、と口の中だけで反芻する。パイロットがいないから現時点では置き去りのままだと艦を降りるときに聞いた。
「やってやろうじゃんか」

 何がしたかったのか、なんて、もう忘れた。何がしたいのか、なんて、きっとひとつだ。
 戦争が終わって、人殺しだと罵られるかもしれない。それよりも、途中で死ぬかもしれない。けれど今、ここで逃げたことを後悔するのが嫌だ。仲間を守れなくて遣る瀬無い気持ちになるのが嫌だ。考えることを強引に促してくれた少女が、いなくなるのが嫌だ。
 何よりも、ここで何もしない自分が嫌だ。
 それまでの世界はとても狭かった。ただ与えられるだけの狭い世界で、自分で外を見ようとしなかった。
 それが嫌だから。
 また、爆風が吹きぬける。目を閉じてそれをやり過ごし、風で乱れた髪を両手で掻きあげる。瞼を上げて、遮るもののない世界を睨みつけて。
 ふ、と軽く溜息を吐いて、走り出す。

 世界を、超えてゆけ。

To go Episode No.1
作品名:OP 12 Over the world 作家名:綾沙かへる