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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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誘蛾灯

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 唐突な言葉にその意味を諮りかねていると、キラは青い制服に袖を通した。月明かりの下で、白い砂の上で、それは恐ろしいほどによく映える。払い落とされた砂の細かな粒が風に乗って舞い上がる。
 「だから、戻るね。…次に会う時まで。」
 そう言って、キラはディアッカの頬に軽い口付けをした。
 「…なんだよ、それ。」
 微かな苛立ちが混じる。次に会う時、それは多分戦場で。自分を遥かに上回る同僚が、二人かかっても敵わない相手を、落とせと言う事なのだろうか。
 「…オレが、おまえに勝てるわけ、ないだろ。」
 悔しい、と純粋に思う。そして、もう多分、撃てないだろうとも。
 「アスランが、敵わなかったんだからな。」
 知らず、口を付いて零れた言葉。それにキラは一瞬だけ辛そうな表情を見せて俯いた。
 「…アスランには、あげない。」
 そう呟いて微笑む。
 明らかに、知っている口調。それでも、それを問い質す前にキラは背を向けて歩き出していた。
 「…おい、キラ!」
 思わず、呼び止めた。それでもきっと、引き返さない事を分かっていて。
 立ち止まって、キラは振り返った。
 「…約束。」
 待ってるから。そう唇だけ動かして、翳った夜の闇に消えていく。

 「…出来る訳、ねーだろ…」
 ただ、そこに立ち尽くしている事しか出来なかった。遠く、小さくなっていく背中。抱き締めた感触が、まだこの腕に残っていると言うのに。
 ほんの僅かな時間だと言うのに、偶然が、引き寄せてくれた。たったそれだけの、小さな出来事。それだけなのに、こんなにも心の中に大きく残っていて。
 本当は、引き止めたかった。どんな事をしても、手元に引き止めて置きたいと、願ってしまった。
 もう戻れない、と思った。
 危険だと分かっていながら、引き寄せられてしまったから。
 それに、その誘惑に抗えなかったから。
 その瞳に惹かれて、墜ちていく。
 「…バカみてェ…」
 小さく、嘲笑った。
 そう、それが望む事だと言うのなら。他の誰かに、奪われる位なら。
 「…これでも、軍人の端くれだぜ?」
 他の誰にも、渡さない。奪われる位なら、この手で連れ去ろうと。
 「約束、してやるよ。」
 それが望み。

 破滅しか待つものがないと、分かり切っていても。
 それでも抗えないほどの力を持つ、その瞳に。
 惹かれて、墜ちて、燃え尽きる事しか進む道がなくとも。

 浮かぶ笑みは、清々しいまでに、昏い。


作品名:誘蛾灯 作家名:綾沙かへる