二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ここが果てでもいいや

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
カーテンつけなよ、と当たり前のことを初めて言った人がいた。
部屋に女の人を上げることなんてなかったから、当然なのだろうけれど。
西日が眩しすぎるから、きっと夜がさびしくなるのよ。
烏色の髪と同じ目をした彼女は淡々と抑揚のない話し方をした。感情がないのではなく、生まれつきそうであるらしい。赤ん坊の時分から、泣かず、笑わず、甘えず、の三冠王である。母親からしたら手が掛からない良い子なのだろうが、それと同時になんとも可愛げのないこどもだったのかもしれない。
「母親?そうね、私が忍になるっていっても驚かなかったな。あ、そう。くらいの呆気無さよ。父親はその一年前に家を出てたから、私があの人がなりたくてもなれなかった忍になったなんて知らないし。もし知ったら、どうだろ、やっぱり「あ、そう」程度かもしれない。うだつが上がらない刀鍛冶師でね、夜逃げ同然で家を出て、二十も年上の女のところに転がり込んでた」
彼女はもくもくと立ちこめる湯気を気にも留めず、熱すぎる焙じ茶を啜った。
この独特の香りがすきと、やはり単調な声で言う彼女は、タオルケットの中で足をもぞりと動かして膝を立てた。彼女は自分の足を嫌った。隠すように被っているタオルケットは彼女が唯一自分の家から持ってきたものだった。
足の爪が潰れていることが女性らしくないと思っていたのだろう。彼女の足の爪は、瘡蓋のように白濁した皮が何層にも重なっていた。
それは戦歴の証であり、誇りでもあったが、彼女はやはり繊細な女性であったのだとおもう。
「父親が出て行って半年も過ぎると「すぐに泣きついてくるわよ」って強がってた母も、情緒不安定になってた。食器を割ったり、何でもないことに急に泣き出したり。今なら馬鹿なことをしたって思うけど、そのときは真摯に、こどもなりに私がなんとかしなきゃって思ったのね。家を訪ねたのよ。よせばいいのに、父のところに。父はいなくて、女が出てきた。私が名乗ると、女はぴくりとも表情を変えずに、すみませんすみませんすみません、申し訳ありませんって一つ覚えのように繰り返した。私、そんな言葉を聞きに行った訳じゃないわ。だから、とうさんを返してくださいって、言ったの。そのときばかりは声が震えてたかな。女は下げていた頭を起こして「それは出来ません」ってはっきりと言ったわ。かあさんが泣いてるんですって言っても、首を縦に振らなかった。それでね、悪びれもせずにこう言ったの。「あの人を愛しているの。あなたにも、好きな人が出来れば分かるわ」って。使い古された台詞みたいだった。こどもに説いて聞かせるような言葉でもなかったしね。私、泣きもしなかったけれど、心が砕けたような気がした。あんたも女なんだからって、言われてるような気がしたの」
それから人に、触ることができなくなった。
彼女はそう言って、お茶を飲み干した。
猫舌の自分でもようやく口をつけられるようになった頃には、いつも彼女は飲み終わってしまうのだ。
彼女には何もかもかなわなかった。
触ることができなくなったという言葉の通り、自分達は付き合っているのかいないかもわからない曖昧なラインに立っていて、キスは勿論、手さえ繋いだことはなかった。
夜をともに過ごしたとしても、狭い部屋にベッドと布団を並べて眠るだけだった。
いや、ただ単に眠るだけではなかったかもしれない。
電気を消してからが長かったからだ。
暗闇に目が慣れてくると、電灯の紐を見つめながらしりとりを始める。
「しりとり」
「りす」
「すいか」
「舵取り」
「りんご」
「ゴマ」
「魔界」
「何で魔界?」
くすくす笑う声は軽やかだった。愛らしく耳に馴染むのを感じながら、おれはしりとりを続けた。
「いかだ」
「だから」
「ライス」
「すきなんだなあ」
それもうしりとりじぇねえよ、とおれがわらうと彼女はまた屈託なくわらった。
暗闇が彼女を強くする。
自分の、女性である体を嫌う彼女は、暗闇の毛布で体を覆った途端、よく笑い、朗らかになるのだった。
それから彼女はおれの下手くそな歌を好んで、眠るのに不似合いなロックンロールを歌って欲しいとよくねだった。
アドレナリンが出る大好きな歌をうたっていると、おれは布団の上で海老のように跳ね出すので、それがどうやら彼女の笑いの壷を押さえているらしかった。
童心に戻り、二人は転がるようによくわらった。
おれはおれで、眠るまで彼女に名を呼んでもらうことがあった。
彼女の声は心地良い。薊に吹く風のように、澄んだ良く通る声だった。
「ナルト」
「ナルト、」
「なると」
「なると、」
「なると」
一定の間を置きながら、彼女はそう繰り返した。
いつだったか、おれが眠ったと思ったのだろう。彼女は閉め忘れた蛇口から水滴が落ちるように、静かに広がる暗闇にぽたりと声を放った。
「なると、」
「あんた、」
「すきなひとがいるんでしょう」
どきりとした。声を上げてしまうかと思った。
息をするのも堪えてじっとしていたが、彼女は気配できっと気づいていたに違いない。嗅ぎ分けられないほど、彼女の才能は埋没していなかった。
中忍に上がるまでこそ時間は掛かったが、任務を共にこなしてきた上忍達の覚えめでたく、特別上忍へと推挙された。
「私ね、あんたといると、たのしくって、涙が出るほど笑い転げて、ふとね、ああこのひとに触ることができたらしあわせだろうなあっておもうのよ。きっとしあわせな心地がするんだろうなあって。でも、きっと私はあんたに触れない。触れることなんてできない。暗闇でも、あんたの髪はきらきらひかってるのよ。それをみてるとね、たまらなくなるの。さわっちゃいけないっておもうの。きらきらしてて、きれいだなあっておもったら、じわっと涙腺が緩んで、こどもみたいに丸まっていないと、泣き出しそうになる。あんたから、手を離さないと、って思ってるのに、ずるいから、ずっとみていたいって、あんたの優しさにつけ込んで、ずっといたい、一緒にいたいって、あんたの服の裾を掴んで引っ張ってる。私、あの女と同じなの」
違うと思った。違うと言ってあげたかった。それから手に、触れれば良かった。
「ナルト、あんたの名前がすきよ。響きがすき。あんたの声がすき。下手だっていうけど、歌はやさしいわ。とてつもなく、やさしいの。あんたの青い目がすき、大きな口がすき。ちょっと曲がった鼻がすき。不器用なところもすき。手は骨っぽくて、でもあったかいんだろうね。同僚が言ってた。雪山で遭難したら、全身湯たんぽのナルトにくっついたらいいよって。この子はあんたに触れたことがあるんだろうなっておもった。あんたと私が付き合ってると思ってるから、悪気もなく言ったんだろうけど。でも、そうね、雪山で遭難したら、私、ようやくあんたに触れることができそう」
吐息が落ちた。視線を横に向けると、彼女の白い手がベッドの縁からだらりとこちらに垂れていた。
体を起こして彼女を見た。
彼女の烏色の瞳が瞬いている。
彼女は泣いていた。
整った鼻を伝って、シーツに涙を落としていた。
「ナルト」
「うん」
「あんたはちゃんと、触らなきゃだめよ。すきなひとがいるなら、ちゃんと触れなきゃだめよ。話をして、すきだと告げて、どうか触って」
「おれ、」
作品名:ここが果てでもいいや 作家名:夏子