ここが果てでもいいや
「ねえ、ナルト。わたしね、」
ああ、このひとはとてもうつくしいひとだなあ。
涙を流す彼女の横顔を見つめながら、場違いなことをぼんやりと思った。
「ここが、果てでもいいや」
あんたとこうして同じ部屋で息をしてるだけでいいや、と彼女は続けた。
特別上忍である彼女は優秀で、そつなく任務をこなし、時間が合えば大吟醸を片手に部屋へと上がり込んでくる。そして疲弊しきった野良猫のようにすやすやと丸まって眠った。
おれは彼女が好きだった。
潔く、繊細で、片眉を下げて笑う彼女がすきだった。
けれど自分から、触れることをしなかった。
彼女は、戦渦の最中に殉職した。
残されたものは、ベッドの脇のタオルケットだけだった。抱えると、彼女の匂いがするかと思ったが、忍らしく、何の匂いもしなかった。痕跡を決してこの部屋に残さなかった。忍らしいのか、彼女らしいのか、今では分からない。
気づいた途端、こみ上げる感情を抑えきれなくなった。
西日を背に浴びながら、おれはがむしゃらに泣いていた。
西日が眩しくとも、反動に夜がもっと暗く思えたとしても、どちらであってもさびしいものはさびしかった。
彼女は女の子だった。
かわいらしい、純粋な女の子だった。
決して恥ずべきことではなかったのに、おれはそれを丁寧に、彼女に告げてあげることができなかった。
作品名:ここが果てでもいいや 作家名:夏子