ここが果てでもいいや
ナルト、と声がしてぱちりと目を開けた。
「どうしたの、眠いの?ここで寝たら風邪引くよ」
こたつに体を突っ込んで(体格が良い上に、背があるので、小さなこたつから手や足がはみ出ている。妖怪こたつ人間と揶揄されるのは、当然のことだった)いつの間にかうとうとと微睡んでいたようだ。
「ねむくない」
「うそだ、声が眠そうだ」
いつも眠そうな彼に言われたくない。
むっと口を尖らせると、そこに蜜柑を差し込まれた。小振りなものだったが、丸々一個入れられては堪らない。
もごもごと口を動かす様を「ハムスターみたい」と彼はわらった。
じゅわっと咥内に甘酸っぱさが広がる。
寝転がったまま、天井を見つめた。
「カカシさん」
「なに」
「おれね、カカシさんがすきだよ」
おやおや、と彼は老人のように茶化したが、それでも真摯に「ありがとう」と返してくれた。彼が上から、こちらを覗き込む。
「どうしたの、えらく感傷的だ」
「うん」
「泣くの?」
「泣かない!」
彼へとそっと手を伸ばす。
それでも触れず、頬の付近で手を止めた。
「おまえは体温が高いねえ。温度が、うっすら伝わる」
反して彼の手は冷たい。触ることができたから、それに気づいた。
おれは彼女の手の温度すら知らなかった。
すきなひとに触れないのは、とても辛い。泣きそうになるほどつらい。今、彼に触れたいが、触れない、それだけで心が痛い。
じんわりと涙の膜が張った。
あんたがすきだと吠えて、吠えて、ようやくこの人を手に入れた。
「カカシさん、この世の果てってどんなところだとおもう?」
彼は急に目を堅く閉じ、首を曲げて考えた。答えが出たのか、彼がへらりとわらう。
彼はそんな笑い方をすると、とてもキュートだ。そう言うと、必ず馬鹿にしたような目でこちらを見る。おっさんにキュートもくそもない。そんな可愛くない言い回しをした。
「星空みたいなところ」
案外幼いことを言う。
「地面も空も、星が瞬いてて。ブラックホールみたいに真っ暗で静寂に包まれてる」
「さびしそうだ」
「そうかな、とても、きれいだとおもうよ。それに、そこにおまえがいれば、さびしくないし。賑やかで、あったかいおまえといれば、どこだってさびしくなんてないよ、ナルト」
ほろほろと涙が流れて、滑らかに頬を伝ったかと思うと、耳の穴へと入っていった。
ここが、果てでもいいや。
確かにそう思う。彼が描くこの世の果てが今いるこの場所でなくとも、そう思うのだ。
幼子のように両手を伸ばすと、彼が自然と腕の中に落ちて来た。しがみつくようにして彼を抱きしめる。
体温を全身に感じる。
あたたかい。
言いようのないやさしさが、そこにはあった。
彼の髪の生え際に唇を落とす。絹糸のような睫毛が微かに揺れたかと思うと、隠れてしまいそうほど目を細めて彼が微笑んだ。
作品名:ここが果てでもいいや 作家名:夏子