Song for you
ハリーは一息ついて、首を振った。
まさかここでドラコに会うとは、全く予想外だったからだ。
つまみで出されたローストピーナツを口に放り込んで唸っていると、後ろから声がかかった。
「―――僕の演奏の感想は?」
絹のような声がハリーの耳元で囁かれる。
その声に全身が反応し、ヒリヒリとする気持ちいい震えが走るのを感じた。
「ものすごくよかった。君にそんな特技があったなんて」
驚きを禁じない答えに、ドラコは機嫌よくニッコリと笑った。
背負っていたギターケースを下ろすと、隣のスツールに身を滑らす。
「もう5年になるかな」
「えっ?だったら、ホグワーツにいた頃から弾いていたんだ。知らなかったな……」
「いや、あの頃は暇つぶしに、ただ爪弾いていただけだ。本格的に弾き出したのは、卒業してからだけど」
ハリーはカウンターのバーマンにエールを注文し、それをドラコの前へと置いた。
ドラコは軽く礼を言いつつ、口を付けグラスを傾けた。
「舞台に立てるほど本格的なんだ。すごいな」
「いや、それほどのものじゃないけど。ここは少しでも弾けたら、誰でも演奏できるんだ」
「だけどセンスはいいんだろ?そうでなきゃ、下手くそだと酔っ払いがからんでくるし」
「まぁ……、ステージに立つには最低限のラインはあるけどな」
満更でもない表情でドラコは微笑みながら答えた。
「でも自分がそういうことに疎いのかな?知らない曲ばかりだったけど」
「ああ……、実はあれは全部、自分のオリジナルなんだ」
「えっ、そうなんだ。君にそんな隠れた才能があったなんて知らなかったよ。ほかにもあるの?」
「曲作りは趣味だから、結構たくさんあるけど―――」
「けっこう良かったから、もっと聞いてみたかったな」
お世辞ではなく本心からハリーは言った。
「―――僕のほかの歌も聞いてみたいのか?」
ドラコは言葉を区切って、じっとハリーを見詰める。
落とした光の中、ドラコのシルバーに近いブロンドがぼんやりと輝き、美しい虹彩を放っていた。
細身でも引き締まった体つきは、服の上からでもよく分かる。
特にぴったりと張り付くようなジーンズの腰から下へのラインは絶品だった。
ハリーは突然喉の渇きを覚えて、ゴクリと唾を飲み込む。
体の奥から湧き上がってくる興奮に身震いがするほどだ。
相手の服を脱がしてベッドに転がし、その肌に触れて撫でることが出来たらどんなにいいだろうと、熱心に思った。
ドラコはスツールの上で足を組みかえると、垂れていた前髪を邪魔そうにザッと上に掻き上げる。
その柔らかい髪に指を絡ませて、うなじに手を伸ばしたい。
ドラコはチビチビと飲んでいたグラスを傾け、残りを一気に流し込むと、満足げなため息をついた。
チラリとハリーを見上げるいつものきつい眼差しが、心地いい酔いで少し瞼が重そうに震えている。
青白いほほにほんのりと赤みが差していた。
「ハリー……」
囁くような声には、どこかあだっぽい艶がある。
ギターを弾く、長く繊細そうな指がハリーの肩に触れた。
もたれ掛かるように寄せられたからだからは、フワリとパヒュームと汗の香りが鼻腔をくすぐる。
ハリーは熱いものが全身に回るのを感じた。
ドラコはただじっとハリーの顔を見詰め続けている。
グラスを置くとハリーは期待を込めて、同じように相手を見詰め返した。
「ああ……、とても君の歌声が聞いてみたい。どこか別の場所で―――」
低くしゃがれた声で囁く。
ドラコはその視線を受け止めて、目を細め、意味深に舌で口を舐めた。
「──だったら、僕の家へ来るかい、ハリー?僕は君のためだけに歌うつもりだ」
うめきを含んだ甘い声は、ハリーの鼓動を数倍も早くする。
『魅惑的な声と、サラサラと流れ癖のないシルバーブロンド』
それはハリーが今まで選んできた恋人の条件のひとつだった。
なぜ自分が最初からその相手ばかりを選んできたのか、やっとハリーは理解し、小さく笑った。
「―――どんな曲を?」
期待に満ちて顔を寄せると、ドラコはハリーの耳を軽く噛んで舐めて、甘く囁いた。
「もちろんラブソングを、君に―――」
■END■
作品名:Song for you 作家名:sabure