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愛されてますよ、さくまさん

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あほのさく(アザさく)



空は不気味な雲で覆いつくされ、怪鳥が甲高く啼きながら飛んでいる。
地上もおどろおどろしい雰囲気が漂っている。
ここは、魔界だ。
「あっちゃん、こんなところでなにしてるの?」
顔は骸骨、裸の上半身はあばら骨が浮き出ている悪魔が声をかけてきた。
アザゼル篤史は顔を少しあげる。
土手にヤンキー座りして川をぼーっと眺めていたところだった。
その隣に骸骨風の悪魔が腰をおろした。
そちらのほうをチラッと見て、アザゼルは答える。
「考え事しとったんや」
「あっちゃんが……!?」
「なんや、ワシが考え事したら、おかしいんか」
「あ、いや、まあ……、え、と、それで、なにを考えてたん?」
そう問われ、アザゼルは黙りこむ。
さっきまで考えていたこと。
脳裏に、人間の娘の姿が浮かんだ。
「……ワシの契約者のことや」
「ああ、今のあっちゃんの契約者は、たしか、日本人の若い女」
「そや」
「その女がどうしたん?」
またアザゼルは黙りこんだ。
少しして、口を開く。
「ワシに暴力を振るいよるんじゃ。腹、たつ」
顔をしかめて言いながら、アザゼルは土手に生えた草をわしづかみにしてブチッと引きちぎった。
「えっ、あっちゃんに人間の若い女が暴力!?」
骸骨風の悪魔は驚いた表情をしている。
「あっちゃんのほうがはるかに強いはず。一回、ガツーンとやったらどう?」
その眼はアザゼルの身体を見ている。
アザゼルの下半身は獣だが、上半身は人に近い。
大柄で、筋肉がしっかりとついた他人に威圧感を与えるほどのたくましい身体だ。
「そういうわけにはいかんのや」
アザゼルは声のトーンを落として答える。
「ワシら悪魔は契約関係にある人間に害のあるような能力の行使はでけへん」
この辺のことは同じ悪魔なら知っているはずだが、人間界にグリモアの力で召喚され活躍できる悪魔は選ばれた一族の代表だけであるため、代表者でない者はふだんはあまり意識していないのだ。
「それに、まえの契約者のアクタベのせいで、人間界に喚びだされたときには、身体が小さなってしもうとるんじゃ」
「へー」
骸骨風の悪魔は相づちを打ちつつも、よくわからないといった表情をしている。
人間界でアザゼルがどんな姿になっているのか想像できないのだろう。
まぁ、コイツらにあの姿、見せたないし。
そうアザゼルが思ったとき。
アザゼルの頭上に魔法陣があらわれた。
「……喚んどる」
魔法陣を見あげて、言う。
「しゃあない、行ってくるわ」
「うん。あっちゃん、がんばってね」
骸骨風の悪魔の励ましを聞きながら、アザゼルの身体は魔法陣に吸い込まれていった。