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愛されてますよ、さくまさん

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人間界に喚び出されたアザゼルの姿は魔界にいたときとはまるで違っている。
身体全体がちんまりと小さくなっている。
しかも、筋骨隆々だったのが嘘のようなメタボ体型だ。
そのうえ、顔は犬っぽい。
なんやねんこれ。
そう自分で自分にツッコミを入れたくなる。
こんな姿ではとうてい、人間の娘が相手であっても、ガツーンとやることはできそうにない。
「で、なんの用?」
アザゼルは現在の契約者の佐隈りん子にたずねた。
すると佐隈は明るく笑った。
「事務所のお掃除、お願いします」
そう言って、手に持っていたぞうきんをアザゼルに渡した。
アザゼルの眼が点になる。
しかし、佐隈は気にした様子はまったくなく軽い足取りで去っていく。
こんな用で召喚されるワシって……。
そう思いながらも、アザゼルはぞうきんを手に窓ガラスのほうに向かった。

掃除が終わった。
事務所内を見渡すと、ソファに腰かけて雑誌を読んでいた佐隈が顔をあげた。
「おつかれさまです」
「おー、疲れたわ」
アザゼルは文句を言いつつ、ぽてぽてと歩く。
魔界にいるときよりも小さな身体。小さな足。とうぜん、歩幅も短い。
今、事務所にいるのは、アザゼルと佐隈だけだ。
事務所の主である芥辺は出かけているらしい。
しばらくして、アザゼルは佐隈の座っているソファのすぐそばに到着した。
ソファによじのぼる。
そして。
「疲れた、疲れた」
ふたたび文句を言い、ソファに寝転がる。
ソファの肘置きに足を乗せ、頭をほんのちょっとだけ佐隈の膝の上に置く格好で。
佐隈は動かない。そのままでいる。
抗議もしない。
今のアザゼルの姿がこれなので、犬の頭が膝の上にあるだけ、という感覚なのだろう。

さくは、あほや。
そうアザゼルは思う。
ホンマのワシはもっと大きいねんで。さくよりデカいねんで。
筋肉ムキムキで、顔かって引き締まってて恐いねんで。
そんなん、膝の上に乗せて。
あほやな、さくは。
そう思いながら、アザゼルは言わない。
言わずに、眼を閉じた。

気持ちよく眠っていて、やがて、自然に眼がさめた。
「アザゼルさん」
視界に、佐隈の顔があった。
つまり今まで同じ体勢で眠っていたということだ。
ずっとアザゼルは佐隈の膝枕で寝ていたのだ。
「起きてくれて良かった。買い物に行きましょう」
「えー」
「えー、じゃなくて」
アザゼルはしぶしぶ身体を起こした。
隣で、佐隈はソファから離れていこうとしている。
だから、アザゼルはそのあとを追った。
佐隈は出かける用意をし、事務所の戸締まりをした。
ふたりとも、事務所の外に出る。
アザゼルには羽根がある。
もちろん、その羽根で飛ぶこともできる。
しかし。
「さくちゃん」
右手を上に差しだした。
すると、佐隈はそのアザゼルの手を取った。
あたりまえのように。
手をつないだ。
それから、ふたたび、歩きだした。

今の自分の手は小さい。
だからこそ、佐隈は平気で悪魔の自分と手をつなぐのだろう。
でも、本当の自分の手は大きい。
だけど。
そんなことは、あほのさくには教えてやらない。