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愛されてますよ、さくまさん

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「あなたに喚ばれなくなってから、魔界でレトルトのカレーを食べ続けていましたが、何度も、ええ、それはもう何度も何度も、私の好物に誘惑されました。その誘惑に耐えてきたんですよ」
ベルゼブブは胸にわいた感情については触れず、話を続ける。
「ですが、このあと、また、あなたから喚ばれなくなったら、私はキレるかもしれません。今まで耐えてきたぶん、好物を食べて食べて食べまくるかもしれません。そうなれば、今回のように窮地に陥ったあなたが私を召喚したとき、私はすごいにおいを漂わせているでしょう」
「わかりました。これからは、ちゃんとベルゼブブさんを喚びます」
佐隈はきりっとした口調で言った。
たいしたことのないやりとりだ。
だが、楽しいと感じる。
ベルゼブブは佐隈を腕に抱きながら気分良く夜空を飛ぶ。
「……ベルゼブブさん」
また、佐隈が話しかけてきた。
「なんですか?」
「綺麗ですね」
「は?」
ベルゼブブは眉根を寄せる。
「なにがですか?」
「夜景が、です」
そう答えた佐隈を見る。
佐隈は眼を地上のほうに向けている。
「ベルゼブブさんは見慣れているかもしれませんが、私はこんなところから見るのは初めてです」
その声は弾んでいる。
ベルゼブブも下を見た。
ビルの照明などが、まるで地上にまき散らした宝石のように見えた。
たしかに綺麗だ。
けれども。
悪魔の腕に抱かれて夜空を飛行中に、夜景に見とれる。
佐隈はやはり図太い。
そんな図太さが嫌ではない。
むしろ好もしく感じる。
もっとも、図太いから好きだというわけではない。
好きである理由なんか知らない。
理由を知らないが、自分は佐隈がいい。
佐隈のそばにいたい。話をしたい。その身体に触れたい。キスをしたい。そして、それ以上のこともしたい。
自分は本気だ。
本気で、好きだ。
しかし、自分は悪魔で、佐隈は人間である。
種族が違う。
だが、アンダインが結婚相手を人間界で探しているように、悪魔と人間は一緒になれないわけではない。
ただし、一緒になろうとすれば困難がいくつもある。
その困難を乗り越えてくれと簡単には言えない。
けれども、もし、乗り越える覚悟をしてくれるのなら。
なにがあっても、どんなものからも、護ってみせる。
そう決めている。
「さくまさん」
「はい」
「この夜景を見ることができて良かったですね」
「はい」
「この夜景を見せてくれる優しい恋人がいて良かったですね」
「は……じゃないっ」
「はい、と返事しなさい。キスをした仲じゃないですか」
「それはそうですけど、違います……!」
「まったく素直ではありませんね、このビチグソ女は!」
ののしりながら、腕の力を強くした。
腕に抱いている者の温もりを、いっそう感じる。
ベルゼブブは数えきれないほどの人工の輝きの上を、気持ち良く飛び続けた。