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愛されてますよ、さくまさん

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小さなペンギンのような姿のときに、大きな男の身体を手で持って飛び、遠くまで運んだことがあった。
今は本来の姿で、抱えている相手は女性の佐隈である。
まったく問題ない。余裕だ。
ベルゼブブは部屋の中を優雅に飛び、やがて、窓の近くまで行った。
窓の端にはボロボロのカーテンがあり、外から入ってくる風にわずかに揺れている。
その横を通りすぎる。
外に出た。
しかし、下降せず、逆に、上昇する。
夜空へと飛んでいく。
遠くで、満月とは呼べない少し欠けた月が白く輝いている。
加速したせいか、佐隈はベルゼブブの首のあたりにまわしている手に力を入れた。ぎゅっと、しがみついている。
そんなことをしなくても絶対に落とさないのに。
そう思うものの、気分は良い。
しばらくして、ベルゼブブは上昇するのをやめ、水平方向にゆっくりと飛ぶ。
「……ベルゼブブさん」
ふと、佐隈が話しかけてきた。
「ありがとうございました」
礼を言われた。
なんのことか、一瞬、ベルゼブブはわからなかった。
だが、すぐに、佐隈を追っていた男三人を片づけたことだとわかる。
自分は召喚されて、イケニエをもらい、仕事をしただけだ。
しかも、そのイケニエは、佐隈の唾液。
深いキスだ。
佐隈の窮地に付けこんで、普段ならできないことをした。
礼は言わなくてもいい。
そう思ったが、ベルゼブブは別のことを言う。
「これにこりたら、次回は最初から私を喚ぶように」
実際、佐隈は窮地に陥っていたのだ。
ベルゼブブを見て高く売れると言った男たちが佐隈を捕まえていたら、どうなっていたか。
ギリギリのタイミングで佐隈はベルゼブブを召喚したが、それは召喚できる状況だったからで、運が悪ければ召喚する機会がなく捕まっていたかもしれない。
とはいえ、佐隈を責めたてるのは酷な気がした。
だから、話題を少し変える。
「いいかげん、あなたの作ったカレーが食べたいんです。レトルトのカレーには飽きてきましたから」
「まさか、ベルゼブブさん、魔界でレトルトのカレーを食べていたんですか?」
「はい、そうです」
カレーが好きだから。
だけではない。
「だから、キスをしたとき、あなたが嫌がるような、においはしなかったでしょう?」
ベルゼブブは軽く笑いながら問いかけた。
しかし、佐隈は答えない。うつむいて、黙っている。
キスをしたことには触れたくないようだ。
触れるのは恥ずかしい、そんな感じか。
だとしたら、初心な反応である。
もしかすると、あれが佐隈のファーストキスだったのかもしれない。
佐隈のファーストキスを自分はいただいたのか。
ベルゼブブは愉快な気分になった。
他の男にやらずに済んで良かった。
これからも、他の男にはやりたくない。
キス以上のことの、佐隈の初めて、は全部、自分のものにしたい。
そう強く思った。
独占欲だ。