一片の氷心
「俺がお前のことを気に入ってるから付き合ってるんだ。わかったか?」
「……はい。ありがとうございます、孟起殿」
彼の武芸だけではなく、こうした人柄もまた『五虎大将』と賞される所以なのだろう。
姜維はますます馬超に対する思いを強めていく。
嬉しそうに笑む姜維の顎を固定し、素早く馬超は唇を合わせた。
「っ!」
「礼としてもらっておく」
「っ……」
今、彼は一体何をしたのだろうか。
自分の認識が間違っていなければ、接吻である。
「そ、それはっ」
一体どういう意味があるのか。
意味すらあるのかどうかも分からず、姜維は顔を赤く染めたまま馬超を凝視する。
「真面目に考えるな。白髪になるぞ」
「〜〜っ」
彼にしてみれば、軽い意味だ。
懸命にそう言い聞かせる姜維の姿を、馬超は笑いをこらえながら見つめる。
「分からなかったなら、もう一度やるが?」
姜維は首を大きく振った。
「いえっ! もう結構です!」
「そんなにはっきりと拒まれるとは残念だ」
しかし、口調にはあまり言葉通りの感情が込められていない気がする、と姜維は混乱する頭の片隅で感じた。
「ま、これからも宜しくな、伯約」
「はい、こちらこそ。宜しくお願いします!」
丁寧に礼をする姜維を馬超が抱きしめたことで、更に騒がしくなる姜維の室。
二人が一緒に歩み始めてまだ間もない夜のことだった。