傷口に口付けを…
新羅の話だと、どうやら自分は五日間ずっと深い眠りについていたらしい。
帝人はその間目を覚ますどころか、何の反応め示すことはなかったそうだ。
だから、新羅にも帝人がいつ目を覚ますかが分からないそうだ。
直ぐにでも帝人の元へと行きたかったが新羅に「君だって病人なんだから」と言われ、二日間ベッドに縛り付けられていた。
この部屋を出て直ぐの所に帝人がいると言うのに…。
このわずかな距離がもどかしい。
そしてやっと臨也は退院し、いつもの黒い服を身にまとった。
最初に帝人を見た瞬間はただ、
申し訳ない気持ちと生きていて良かったと言う気持ちで一杯になり、泣きそうになったが新羅たちもいたため自分の中にあるプライドでなんとか泣くのはこらえた。
だが、二人が出ていき帝人と二人きりになると部屋に響く機会音が更に大きく聴こえ、虚しさが増した。
帝人が眠り続けてもう、一週間。
今日もまだ彼は目を覚まさない。
帝人の顔を覗くと左頬に僅かではあるがあの男に切られたであろう傷があった。
その傷にそっと触れながら臨也はただ帝人に謝った。
「みかど…くん………。
ごめんね……
俺がもっと…もっと……」
自分の中で抑えていた感情がプライドと言う壁を壊し、臨也の目からは涙が次々と溢れでてきた。
いつ以来だろうか。
自分が涙を流したのは。
ポタッと臨也の涙の雫が帝人の頬の傷に落ちた。
「みかどくん…」
もう一度愛しい彼の名を呼び、自分の涙で濡れてしまった彼の頬の傷口に口付けをした。
その時、ピクリッと彼の瞼が動いてゆっくりと目を開けた。
まだ慣れない目で臨也をとらえると彼の方へと力が入らない腕を懸命に伸ばして臨也の頬に手を添えた。
「いざやさ…ん……。
なんで……ないて…るんで……すか…?」
かすれきった声だった。
力の無い声だった。
それでも彼の声だった。
そんなことでさえ喜びを感じ、更に涙が溢れた。
「いざや…さ……。
泣かない…で……くださ…い。
僕は嘘だって……あなたの笑顔が…好きなんですから……」
力無く笑う彼に向かい、臨也は涙を流しながらまた同じように力無く微笑み帝人の頬にある傷口に口付けをした。