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Sweet Dream

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その部屋からは、とても甘い匂いが漂っていた。

君にいざなわれて、ドアを開けると、中は一面の真っ白い世界が広がっている。
あまりにもそれが眩しくて目を細めると、ドラコは先に進み屈みこんだ。
指をその中に突っ込むと、すぐに戻ってきて、立ちつくしている僕の頬に、白いそれを塗り付けてくる。

「いったい、何を──」
突然のことで、意味が分からず、頬に付いたものを、手の甲で拭おうとして、「ん?」と怪訝な声が自分の口から漏れた。
戸惑っている自分に向かって、ドラコはいたずらっぼく目を細めて囁いた。
「舐めてみろよ」
言われたとおりに、手に付いたものを舌で取り、口に含む。
一瞬で口の中いっぱいに、バニラビーンズの甘い匂いと味が広がった。

「これは、アイスクリーム?」
「まさか、生クリームだよ。アイスだったら、凍えてしまうだろ?」
食べ物に疎い僕をからかいながら、君はクスクスと笑う。
いったい、何が『凍ってしまう』のか意味が分からなくて、首を傾げた。

ドラコは歌うように身軽な動きで、着ているシャツを脱ぎだす。
軽くターンをするとそれを放って、躊躇なくズボンまで脱ぎ始めた。
下着まで脱いだのを眺めて、頷いた。
『ああ、これは夢なんだ』と。

いくら、世界に色が付いていても、相手が普通に喋っていても、食べ物の味が分かったとしても、きっと、──いいや、絶対にこれは、自分の見ている夢にちがいなかった。

だって、現実のドラコは、平気な顔のまま、自分の前で鼻歌を歌いながら、裸になんか、ならなかったからだ。
プライドが高い彼は、こんなことを絶対にしない。
夢の中で、『ああ、これは夢なんだ』と気付くなんて、なんだか笑い話みたいだ。

ドラコは裸のまま白い生クリームのプールの中へ入っていき、振り向いて、僕に笑顔を見せる。
自分も同じような笑顔になった。
請われるまでもなく、服を脱ぐと、同じようにクリームの中へと入る。

ホイップは予想通りフワフワで、とても肌触りがよかった。
手ですくうと、そのままツノが立ち上がり、柔らかさの中にきめの細かさまで重なっていて、とても気持ちがいい。

ドラコはじゃれるように、クリームを僕の頬に塗りたくった。
なぜ、さっきと同じことを、またするのかと不思議に思っていたら、僕に顔を近付けてきて、クリームを舐め始める。
赤い舌先でホイップを絡め取り、そのまま、僕の頬までペロリと舐めた。

舌の感触がくすぐったくって、肩をピクリと窄めると、相手はクスクス笑いながら、クリームをすくって、今度は僕の鼻先に乗せて、そこを舐めて、軽く噛む。
もっと、くすぐったくなって、堪らなくなり、身を震わせ、背中を反らすと、逃げないように、ドラコは逆にぎゅっと抱き付いてきた。

また、クリームをすくうと、今度は僕の唇に乗せる。
期待を持って見詰めると、相手は予想通りに、顔を近付けてきた。
ふわりと唇が重なり、ゆっくり口を開くと、ドラコの舌先といっしょに甘いクリームが入ってくる。
とろけるような感触に、ぼんやりと夢心地のまま、瞳を閉じた。

僕たちはキスをしながら、互いの唇にクリームを乗せて、食べさせ合った。
擦れ合う肌がホイップにまみれて、摩擦のほとんどない、滑るような感覚が気持ちいい。

クリームのプールは真っ白で、とてもきれいだ。
僕たちはその中で戯れるように、揺れて漂う。
キスに夢中になっていると、チョコレートが沸き出している噴水にたどりついた。
カカオのほろ苦い香りと、ビターな色合いに、僕たちのからだは濡れる。
それを浴びながら唇と重ねると、深いダークな味に、またその味にとろけてしまう。

甘いのは、そのチョコレートのせいなのか、互いのキスのせいなのか分からない。
──ただ、世界は甘くて、いい匂いが漂っていて、幸せなだけだ。

白いクリームの真ん中で浮かんでいる籠の中には、新鮮なフルーツが山盛りに飾られていて、葡萄の房から一粒をちぎって君の口に運ぶと、相手は苺を僕の舌に乗せた。
酸味と甘みの絶妙なバランスに、思わず唸ってしまう。

あのうす茶色の山はスポンジで、その隣にあるのがクッキーとビスケットで出来た小さな家だ。
ひらひらと舞っている蝶々は、ゼリービーンズ。
あの低い羽音を響かせて、色とりどりのグミで出来た花々を飛び回っているミツバチは、本当にハチミツで出来ていた。

自分を取り巻いている世界は、幸せな甘い香りに満たされていて、その中で一番甘いのは、もちろん、──君だった。

プラチナブロンドが輝き、うす水色の瞳は美しく、白い肌に、甘いホイップのデコレートを滴らせて、身を擦り寄せてくる。

あまりにも世界が幸せに満ちていて、満足げなため息が漏れた──


作品名:Sweet Dream 作家名:sabure