Sweet Dream
目が覚めると、部屋は薄暗かった。
まだ、夜が空けるには時間があるのだろう。
真夜中近くは気温が下がるのに、寒くはなかった。
自分たちは床に敷かれたキルトの上で、身を寄せ合って眠っていたからだ。
恋人の丸まった背中に寄り添うように、その背中から前へと腕を回して、いつものように、相手を抱きしめながら寝ていたらしい。
うつむいた横顔を相手のうなじに押し当てていた。
鼻先に柔らかい金髪が触れて、少しだけくすぐったい。
滑らかな首筋にキスをすると、相手は「んんっ……」と言って、少し身動きする。
自分の舌先に、まだ生クリームの甘さが残っていた。
さっき見た夢の続きのようで、幸せな気分になる。
あれは夢の出来事だったのに、自分たちが眠っていた少し先には、食べかけのケーキが残っていた。
昨夜はドラコの誕生日だった。
ふたりきりになれる秘密の隠れ部屋で、自分が用意した大き目のケーキを囲んで、恋人のバースデーをお祝いした。
相手が蝋燭の炎を吹き消して、二人してじゃれあうように、ケーキを互いの口に運ぶ。
唇に付いたホイップを舐め合って、キスをして、クスクスと笑い合っていたのに、いつの間にかキスに夢中になって、それ以上のことがしたくて、ケーキは食べかけのまま忘れ去られて、放って置かれた。
お互いが満足し、満ち足りて眠りに落ちてから、何時間も経過していたので、今ではスポンジが固くなり、クリームは垂れて、ケーキはしんなりとしている。
上に飾られていた苺も、皿の上に転がり落ちていた。
しかし、香りだけは健在で、甘い匂いは今でも部屋に満ちている。
それがそのまま、自分が見た甘い夢に繋がったのだろう……
眠っている恋人に顔を寄せて、唇の端にほんの少しだけ残っていたクリームを、舌先で舐め取った。
「──んぅ……ん」
眠りを邪魔されたドラコは、小さく唸って向きを変えると、自分の胸の中へと転がり込んでくる。
そのまま恋人を抱きしめて、安らかに眠っている横顔を、愛おしそうに見詰めた。
──時々、ハリーはとても甘い夢を見ることがある。
パーティー会場から抜け出したドラコが、ハリーの口にケーキを運んで食べさせた、あの夜からだ。
──甘い夢。
でも、君といっしょなら、現実はもっと甘いことを、僕は知っている。
──だけどそれは、ふたりだけの秘密だけど、ね。
【END】
作品名:Sweet Dream 作家名:sabure