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よしこ@ちょっと休憩
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二重奏

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「俺は君主になってもならなくても、丞相でも、将軍でも、「本当は優秀」な男じゃなきゃならなかった。兵卒でも、元姫が見ているなら、優秀でなきゃならなかった。諸葛誕は馬鹿なんだよ。彼奴は、そんな重しなんぞなかったのに」
「本当になかったのかは、諸葛将軍にしか分からないだろう。そなた、友達ではなかったようだしな。昭殿に分かるのは、昭殿のこれまでだけだ」
 私の手が司馬昭の髪を撫でる。よく手入れされた、金のかかった髪を優しく滑る。気位の高い軍神や、万騎を一喝する猛将、若い龍の猛りを宥めてきた手だ。こんな子供をあやすのは容易い。面白いように司馬昭の顔から力が抜けて蕩けた。
 父は髪を撫でてやりながら囁いた。
「……出来ると見込まれ続けるのは辛いものな。戦なれば尚更だな。始まればいずれかが、もしくは双方が、死なねば終わらぬ。昭どのは、将にも民にも、敵国にも優しい。引かせてやりたかったのだろう?」
「馬鹿。公嗣の馬鹿。なにを変なこといいだすんだよ」
 らしくなく声を殺した司馬昭が、いちど私の胸に顔を埋めた。顎で袷を押し開いて心臓の上に口づけ、きつく跡を残す。そして顔を上げると、ビックリするほどきつい声で怒鳴った。
「公嗣! お前、いつも俺と一緒に無能を馬鹿にしてんのに! どうして! 今だけ、そんなお為ごかしをいうんだ。俺を優しいなんて言うんだ!?」
「ほら、気むずかしいな。いつだって、そんな勝手な期待は嫌だ、それを他人に押しつけるのは嫌だって態度で抗議しているのに。昭どのは、やっぱり期待に応える己でありたいのだ。元姫どのや、私の期待にね」
 父の言葉はサクリと司馬昭の誇りを両断した。
「分かったようなことを!」
 司馬昭の手がいきなり帯を解いた。むちゃくちゃな手荒さで股間をまさぐられて、押しつぶされた性器から痛みが走る。
 首を振って喘ぐと、昭の双眸が情欲で細くなった。
「い……やっ……」
 指が私の分身を掴む。これをすれば男は気持ちいいのだと言わんばかりの図々しさで、根本から先までを荒っぽく摩り始める。
「んっ……やぁ……め……昭どの……」
 だが、父は抵抗しない。私の体が思うより鋭く動くこと、今の昭なら簡単に殴り、蹴って退けられる事を承知で、この子供の好きにさせている。
 この晋王が、今や並ぶ者のいない策略家が、ただの若造に、ただの男に戻って性欲に振り回されている。
 ――ああ、父上。本当に、あなたという人は。
 悔しいという気すら起きなくて、私は目を瞑って二人の好きなようにさせることにした。
 司馬昭が掠れた声で私を詰った。
「……お前だって一緒じゃないか。くそ、お前は最初から皇帝だもんな……」
 うわずった声に引かれて目を開くと、そこには、歯がみした昭の顔。真っ白い歯を子犬のようにむき出しにしてぎゅっと睨んでくる少年の顔!
 ダメだ。
 愛おしさとか、感心とか、悔しさとか、そんなもので私まで囚われる。
(あなたは、私と昭をこういう風にさせたくて、降りてきたんですか)
 心中で父を詰る私の耳元に、昭が熱っぽく囁いた。
「好きだ、公嗣」
 その一言で私の中の熱がさっと引いた。
(……ふざけるないでください)
 父上の手管に血迷って人の体を好きにしながら、何が好き、だ。
 怒りが頭の中を突き抜けて、髪の毛が逆立つ。ぞわっと鳥肌が立ったのを感じたのかと勘違いした昭の指が、しつこく裏筋を摩る。やめろ、そんな手荒いのは嫌いだ!
 そっと受け入れるように父が脚を開く。とくとくと心臓が高鳴るのは父の鼓動だ。誰を重ねているのやら、ほんとうに、貴方という人は。
(……私の体を使って若い男と寝たと、丞相に言いつけますよ)
 囁くと、途端に私の中から父の気配が消えた。
 指の自由が戻ってくる。両手を小指から握り、開いて、それを三回繰り返すと、私はおもむろに昭の背中を抱いた。そうっと首筋から肩胛骨まで撫でる。感じた司馬昭が呻いた。ふん、子供が。
「……っ。あ、え、え!? 公嗣?」
 そうして、司馬昭の大きいのにすばしっこい体が逃げないように固定しておいて、思いっきり膝を打ち込む。
「ぐっ……!? 公嗣、おま、え……」
「油断しすぎですよ、晋王どの」
 さっと飛び退いて、まっさきに下着を合わせて帯をくくる。それから悠々と襟や裾を整えた。司馬昭はまだ蹲ってげえげえ嘔吐いている。この人が床に這いつくばるなんてめったにないな、というか、見られたら不味いなと辺りを伺う。……中郎以下、の気配がある。
(さっさと立たないかな)
 後に引かない程度に腹を蹴ったつもりだが、まったくの不意打ちで筋肉を固める暇がなかったらしい。すこし内臓の手応えがあったかもしれない。
 背中を摩ってやろうかという仏心がちらりと湧いたが、止めた。今、私が動けばきっかけを作って侍従達が入ってくる。晋王の色事らしい気配に遠慮していただけだから、この状況で魏の人間が入ってきたら、蜀の私が咎められるのは必至だ。
「暗愚の蹴りをくらうなど、不運な方ですね。亡国の暗愚相手に悪ふざけをなされては、優秀な皆様がお困りになります」
 その一言で彼は理解した。いつもの、能ある鷹は爪を隠す、不遜で狡猾な策略家の司馬昭に戻る。
「ああ、悪い。せめて膝枕してくんねぇ?」
 少なくとも、この場では護ってくれるらしい。
「しょうがありませんねぇ。暗愚の膝で良ければお貸ししますが、寝心地は保証しませんよ」
 すっかり元に戻った司馬昭に、割り切れない思いを抱えながら側による。椅子から座布団を拾ってその上に足を伸ばして座ると、こてん、と司馬昭が横から頭を乗せてきた。
 小麦色の顔を見下ろしながら、世間を小馬鹿にしたような薄笑いに、さっきまでの子供っぽさを探すが、すでに調子を取り戻した晋王に、少年の面影は見当たらなかった。
 父上、貴方という人は。ほんとうに。
 思わずため息をつくと、司馬昭が私の腰に腕を回して抱きついた。
「お前で良いんだよ」
 思わず瞬きして、いたずらっぽい顔を見つめる。
「やっぱ、お前のがいいわ、落ち着く。お前の父上には、謝っといてくれ。身に染みましたって」
 そう言って、彼は私の返事を聞く前に寝息を立ててしまう。
 私は瞬きした。一呼吸おいてから感心する。やはり晋王。父を見抜くとは。
 すやすやと眠る顔に呆れつつ、感心しつつ、その寝耳に何を言って返そうか、唇に指を添えて思い巡らす。今なら素直に彼の心に届くだろうに。
 暗愚ですがよろしく?
 父にはご自分で弁解してください?
 寝顔を見ながら思考して、結論を出す。
 私と貴方の関係に、余計なものはいらない。だから。
「……私も、貴方が良いようです」
 私は夢の中にいる晋王に告げると、自分の裘を脱ぐと、寝入った彼の体に掛けてやった。
作品名:二重奏 作家名:よしこ@ちょっと休憩