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よしこ@ちょっと休憩
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二重奏

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 案の定、司馬昭ははっと目を見開いてこちらを見た。徐々に顔が赤くなってくる。ふらりと腕を持ち上げて、肩に置くか迷いながら私を見つめる。
 私は、眼前に私に背を向けて立つあの人を意識する。
 私の持つ全ての才知を持たず、代わりにただ一つ、飛び抜けた一つを持っていたあの人を。
「貴方のような方と巡り会えて、私は幸せ者だ」
 あの方の声で、あの方の微笑みで囁く。
 昭は鞠を手に取った少年のようにキラキラした目でこちらを見ると、こくん、と喉を鳴らした。そっと差し出した手にフラフラと手のひらが寄ってくる。この素直さはまるで子犬だ。
 ……同じ光景をずっと見てきた。あの方の周囲でいつも繰り返されてきた光景だ。
 昭が私の手をうやうやしく掬い取る。いつもの様な乱暴な握り方ではなく、しかし、燃えるように熱い。ともすると司馬昭を跪かせそうな雰囲気に、私の政治感がまずい、と警笛を鳴らした。この貴族育ちで気位の高い青年を跪かせるところを誰かが見ていたら、間違いなく波乱を呼ぶ。それ以上に、本人が後から何を考えるか。……なんせ司馬懿の息子だ。最悪の推理に準じて私を追い詰めに来るだろう。
(冗談ですよ)
 振り払おうとして手が動かない。
 ぞっと血の気が引いた。なんだこれは。
「司馬昭どの」
 絞り出した声は危険を告げる叫びでなく、甘い囁きの響き。
 はっと気がつく。司馬昭の目を覗くと、そこに映っているのは紛れもない仁の微笑だった。眉は太く、鼻筋が通って、古風な凛々しさを纏った顔立ち。
 いっぽうで肌色は象牙より白く、淡い色の唇が目を引いた。
 司馬昭は瞬きも忘れて私を見ている。
 私に降りてきた父を見ている。
「ここに来るまでに起こった辛いことは忘れられないが、それでも、私は、今貴方と供にいることを感謝しよう」
 唇が勝手に動いて、感謝の言葉を綴る。そっと顎が上向く。
(ばか、止めてください父上!)
 私が内心で抗議しても、父は当然のように耳を貸さない。
 司馬昭は目を伏せると、大柄な体を曲げて私に顔を寄せてくる。ああ、こうして神妙な顔をしていると、びっくりするほど端正な顔をしているな。でも、子竜ほどでもないな。
 思った瞬間、私の中で何かがツンと刺さった。
(ヤキモチですか!?)
 ほんの僅かの隙間を、私の踵が持ち上がって埋める。唇を温かい肌の感触が覆って、私はああ、と観念した。
 日頃のおおざっぱな素行や大胆な戦の割に、昭の口づけは優しい。そっと重ねた唇で、私の唇を擽るだけだ。
 ……嬉しくはない。なにせ、これは昭が父に誑かされているだけなのだから。人の体を使って自分の能力を確認しなくても!
 昭を引っかけるのはどうでもいい、どうでもいいんです。私の体を勝手に使っているから怒っているんです。
(怒らないでください父上! そもそも、何故貴方が怒るんですか。私はともかく、父上が妬くようなことは何も無いじゃありませんか)
「私は貴方に支えられています」
「分かってる、公嗣」
 口づけが離れても、二人の体は離れてくれない。だめ押しの依存を嘯いて、父は淋しげに俯く。司馬昭が私の手を強く握ると、左腕が腰に廻ってつま先が浮き上がった。
(や、やめて、止めてください。まって、私、私は、男とは、そんなこと、したことないです)
 父の連れていた猛将の一人に憧れたことはある、父の遺志を受け継いだ男に惹きつけられたこともある。けれど、それは純粋に情を寄せただけで、一線を越えたこともないし、そういう意味で男の役割を捨てたことはない。
 彼らも死ぬまで父以外の男にはまったく興味を示さなかったし。
 司馬昭が首筋に顔を埋めてくる。この男の膂力なら私を持ち上げたまま一戦やらかすくらい簡単に思える。
 黄皓と仲良くしたことはあったけれど、それは親密な挨拶程度のことで。ですから、それは、ちょっと、いくら私でも演じきれません。
 チッと舌打ちのような音がして、首筋をきつく摘まれたような痛みが走る。このガキ。跡をつけたな!
 思わずカッと来たのだが、私の体はむしろ喜ぶように力を抜いて、昭の腕に身を任せた。昭が私を見つめる。苦しい何かを堪えるような、男と若さの入り交じった表情。
 強い既視感で胸が疼いた。過労で足下がふらつく貴方を支えるときの、丞相や子竜の顔が、目の前の司馬昭の顔に重なる。
 すん、と鼻を鳴らして匂いまで嗅がれて、私は恥ずかしくて消え入りたくなった。
(嫌だ、やめろ、この悪ガキ! 付き合いきれない)
 心中で思いっきり罵倒するが、言葉は全く反対の響きになって口を突く。
「司馬昭……これは、貴方が本気でないなら、止めてほしい」
 止めて欲しいと言いつつ、決して自分は嫌ではないと告げる二重の誘い文句。どんな顔で昭を誘いかけているのか確認するのも恐ろしくて、間近に伏せている顔から目を逸らす。
 股間を蹴り上げてやろうとした足は、だらりと垂れ下がって、昭の唇が降りて鎖骨に辿り着くと、口づけごとにヒクヒクと揺れる。
 感じる……。こんなに過敏じゃなかった体なのに、不必要な苦痛は感覚を遮断すら出来る、歴とした武人の調練を受けたというのに、その調整が効かない。
 体温も呼吸も触感も全て、父が気持ちいいと変換していく。
「公嗣、俺は」
 顔を上げた司馬昭の、真剣すぎて子供のような直向きな顔に、きゅうっと胸が締め付けられた。
 どうやら体の中の父も同じらしく、動揺している。出て行く切っ掛けを逃したのか、素で司馬昭に心が揺れたのか。間近にある体が大きいばかりの少年をじっと見つめ返す。
「昭どのは気むずかしいな。仕方ないか。まだ出世もしない、経験も積まぬ内から『やれば出来る、優秀な昭どの』と呼ばれ続けて、何かする度に蹉跌も大敗もあってはならぬとは。大変な弟役だ。……苦労するな。君主でもないのにそこまで期待だけされていたら、それでは何もやりたくないだろう」
 司馬昭がじっと私の中にいる父を見上げる。昭の目の中で微笑むのは、頼りなくて、優しく包み込むような、泣きそうな笑顔。弱いから弱さを赦す、強いから奪われることを許す、儚く龍の手のひらから消えた花。
「でもな、昭。人なれば、兵を扱う身であれば、持った才以上の苦難に身を投じねばならぬ事もある。そうして分かっていて死なねばならぬ事もある。それが乱世で、我々、魏、呉、蜀が民に施してきた苦難だ」
「……持って生まれた才能以上なんて要求しなければいいんだ。それで仲間や民や、敵国の民まで振り回して死んじまうなんてバカバカしいじゃないか。あらかじめ失敗すると分かるものに手を出すのが悪いんだ」
「蜀は弱小国。成立だって駄目で元々だった。そうやって成り立つものも、世の中にはあるぞ」
「父上は、諸葛亮だけは有能だって」
「諸葛亮だって大変だったんだぞ。先に主が山ほど失敗するし、そもそも、そなたの考え方なら、分不相応な野心に手を出す主に仕えた、主選びが間違いだろう」
「諸葛亮は失敗しても許して貰えたのか」
「丞相は許して貰えない立場だ。君主ならば尚更。その辛さ、昭殿は理解しているだろう」
作品名:二重奏 作家名:よしこ@ちょっと休憩