Holiday
「──そうか。すまなかった、マルフォイ。今度からは気をつけるよ。そして、今まで気付かなかった自分たちの代りに、そこまで息子のことを、気にかけてくれていたのか。ありがとう」
素直に感謝をこめて、ハリーは頭を下げる。
「いや、実際に、君の家の子育てが大変なのは、理解している。すごい噂をよく聞いているからな。ジェームズという名前の長男は、トラブルメーカーで、ホグワーツでも歴代の、ものすごい問題児らしいじゃないか」
「……まぁ、確かにね。名は体をあらわすという言葉は、ジェームズにあるようなものだよ。僕の父親のジェームズに、親友のシリウスの名前までくっ付けたから、余計やんちゃになったのかなぁ」
などと、苦労を滲ませて、ホゥ……と小さく呟く。
そのときホールから声が響いた。
「パバ!」
「パバ!」
まるでハミングし、ハモるように、ふたりの声がこだまして、ハリーたちを呼んだ。
廊下へと出て上を見上げると、子供たちが二階の手すりから、元気よく手を振っている。
「ねぇ、パパ。箒に乗ってもいい?」
「スピードを出しすぎなかったらな」
「ちゃんと夕方までに戻ってくるんだぞ」
その言葉に子供たちは何度も頷いた。
勢いよく、それぞれの手に持っていた箒に跨ると、床を蹴り、宙に浮かんだ。
そしてクマ蜂のように、グルグルとせわしなく、その場で旋回を始める。
「スピードを出すな!」
「無茶をするなっ!」
親たちの言葉に、アルバスとスコーピウスは、ふたりして無邪気に「ハーイ!」と返事をした。
そうして互いに、意味深に視線を送りあって頷き、ニヤリと笑うと、次に勢いをつけて、大きく開かれたバルコニーの窓から、飛び出していった。
二本の箒が疾走し、交錯し、すぐに点のように視界から消えてなくなり、あとには楽しげな笑い声だけが残った。
ふたりの親たちはお互いに、ヤレヤレという感じで顔を見合わせて、肩をすくめる。
「まだ日没までは時間があるし、もしよかったら、もう一杯お茶はどうだ。新しいのを用意させるけれど?」
「ああ、お願いするよ。なんだか、あのふたりを相手にしたら、ものすごく肩が凝った感じがする」
ハリーは自分の首の後ろをつかみ、コキコキと音を立てた。
「スリザリンで生活している息子たちの写真の束もあるのだが──」
「ぜひとも見たい!」
朗らな笑顔でハリーは頷く。
ドラコがアルバムを広げて説明をする傍らで、覗きみ込みハリーは頷いたり、笑ったりしている。
テーブルの上にある紅茶からは、ゆっくりと柔らかな香りと温かな湯気が立ち上っていた。
窓から差し込んでくる日差しは、温かくてここちがいい。
遠くから子供たちの笑い声が風に乗って、途切れがちに聞こえてきた。
──それは20年後の、とても平和で、ありきたりな、休日の午後だった……
■END■