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こらぼでほすと 闖入1

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天空の湖は、標高の高い場所に、ひっそりとあった。周囲には、集落もないし、人影もない。そこに、エクシアで降りた。綺麗な場所だと、親猫は言っていたが、確かに、黒子猫の胸にも何かしらの感情を湧き起こさせる景色だった。
 そして、そこを降りて集落のある場所にも立ち寄った。以前、歴史上は、大きな宗教国家が、いくつかあったらしい。そこにある高い山を信仰の対象としたものだったらしいが、人革連の一部が、その宗教国家の弾圧を徹底的に施して解体してしまった。しかし、人間は、それでも信仰を捨てなかった。小さな集落には、その名残がたくさん残っていた。
 そこで、この地でしか産出されない白い石を買い求めた。玉石というものだと、そこの年寄りが教えてくれた。
「旅をしているのなら、早く移動したほうがいい。そろそろ、あれらがやってくるのでな。」
 その年寄りは、そう言って、刹那を急がせようとした。弾圧は、相変わらず、定期的に行なわれているらしい。こんな辺鄙な場所に、人革連の軍隊が押し寄せて、集落を破壊していくのだ、と、言う。
「なぜ、居もしない神に縋るんだ? 」
 神などというものは存在しない。刹那が学んだことだ。何かしてくれるわけでも奇跡を起こしてくれるわけでもない。それなのに、信仰をやめないのは不思議だった。
「わしの神は、この世界を見ている。だが、人間に手を貸してくれるわけではない。信じていれば、死後の安堵というものが得られる。それだけのことだ。」
「だが、弾圧されて殺されるなら、やめればいい。」
「やめたところで何も変らない。あれらは、ここに住んでいるわしらが憎いからやってくる。ここが、世界で一番高い山があって、そこを支配することを望んでいるんだ。最後の一人まで狩って、何もない場所にしたいのだ。だから、わしらは逃げて生きていく。」
 意味がわからない、と、刹那は思ったが、それでも老人の言葉には、何かしらの力があった。助けはいらないか? と、尋ねたら、終ったら、また立ち寄れば、茶ぐらいもてなそうと、老人は微笑んだ。
「わしが生きていなくても、誰かがもてなしてくれる。だから、来ればいい。ここは、そういうところだ。」
 世界から隔絶されたような集落なのに、なぜか気になった。だから、もうしばらく、この周辺を探索しようと思っていたのに、エクシアが不具合を起こしてしまって、それも叶わなかった。人革連のレーダーに引っかかったことが、その集落に迷惑をかけたかもしれない。だが、エクシアは人目に晒せないので、急いで、そこを飛び去った。
 だから、修理が終って、そこへ戻った。親猫は、なんとなく黒子猫の気持ちが理解できていたのか、急いでくれた。戻ったら、その集落は焼け落ちていた。どこかへ逃げ延びたはずだと、周辺を探したら、離れた場所に、似た様な集落が出来ていた。もっと小さなものだったが、人は生きている。立ち寄ったら、あの老人はいなかったが、茶はもてなしてくれた。天空の湖は、何も変っていなかった。誰も居ないし、何も存在しない。ただ、真っ青な湖があるだけだ。神が創ったと言われている湖は、延々と変化せずにあるのだろう。人間だけが、消えたり生まれたりする。神が世界を見ている、というのは、そういうことなんだな、と、黒子猫は理解した。やはり神のために戦うことはないのだ。死んだら、神の世界へ行けるのかもしれないが、そうなったら、人間ではない。神を護るなんてのは人間のエゴでしかない。

・・・・護るべきものは、ある。だが、それは、神ではない。そして、誰も神にはなれない。・・・・・・

 心の中にあるものは、黒子猫だけが持っているものだ。それを護るのは、黒子猫だけだし、誰にもわからないものだ。それを静観しているものが、神だというのなら、それぐらいは信じてもよかろうと思う。ただし、黒子猫には、静観してくれる親猫がある。ずっと、黒子猫の生き様を見ていてくれる。それが正しかろうと間違っていようと、親猫も見ているだけだ。

・・・・ニールは神ではない。だが、見ていてくれる。俺には、神はいらない。・・・

 空の具合で変化する湖面を眺めて、そう結論すると、黒子猫はフリーダムに戻った。これから、宗教国家の名残を確認しながら、AEUとの境界線を進むことにした。ここにも、まだ紛争は残っている。境界線の周辺にも、人間は住んでいて、少しでも領土を広げようとしているからだ。人間は、戦うことでしか生きていけないのか、それとも貪欲になるから戦うのか、黒子猫たちの介入が引き起こしたものは、世界を多少変えた。だが、根本的な変化ではないし、まだまだ歪みはなくならない。歪みの理由も、ひとつではない。それを感じながら、黒子猫は世界を旅している。





 そろそろいいんじゃないか? と、人外の某元帥様がおっしゃった。十一月になった。秋というより初冬という時期だ。もう、いいだろう、と、某童子様を誘いに来た。
「なにか、理由はあるのか? 」
 人外から人間界に降りるには、それなりの理由が必要だ。さすがに、目的は観光とか言うと、どっかの菩薩に殴られて却下される。いや、菩薩は、ちゃんと理解しているのだが、表向きの理由ぐらいは考えろ、と、いうことだ。
「親善交渉ということで、とりあえずは。特区の中には、八百万のあちらの神がいらっしゃいますから、そちらに表敬訪問なんてことにすればよろしいですよ。でね、ついでに、悟空を連れて、観光して遊ぼうってことで。目的地は、特区の西にします。」
「まあ、有体に言うとだな、京都奈良あたりの人外のほうへ挨拶がてらに顔出しするってことで、三蔵と悟空と、三蔵の女房を案内役にして観光。」
 理由なんて、適当でいい。わざわざ監視する暇人もないだろう。目的さえあれば、どこからも文句はないし、どっかの菩薩も納得する。
「休暇届を書いてください。僕らのは用意しました。あなたが、親善交渉の大使役で、僕らが護衛です。」
 まあ、そうなるのは仕方がない。事務方の童子様が表敬訪問ということで、軍務のふたりが護衛というなら、わかりやすい偽装だ。
「予定日数は? 」
「二週間ぐらいですかね。できれば、一月ぐらいゆっくり滞在したいんですが、どう思います? 金蝉。」
「移動するなら一ヶ月でも大丈夫だろう。」
「なら、一ヶ月で。楽しみですねー三蔵の嫁。西洋美人ってことだから、金髪碧眼とかだと楽しいんですが。それと、悟空のお友達も。」
「特殊な人間が、盛りだくさんだから、いい遊び相手がいるといいなあ。」
「おまえら、楽しそうだな? 」
 護衛役のふたりは、楽しそうだ。戻ってくる度に、悟空から日々の出来事は教えてもらっているが、やはり実物とご対面というのは興味がある。人間ではあるが、限りなく人外に近いのが、ごろごろしていると言われているので、興味は尽きない。それに、性格最悪の鬼畜坊主が、女房を貰って幸せに暮らしてるなんていうのは、是非とも直に確認しなければならない。あの乱暴極まった坊主に寄り添うのは、かなり根性がいる筈だからだ。
作品名:こらぼでほすと 闖入1 作家名:篠義