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恋文。

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長い長い泥から体を起こすように。それは酷く大変ではあったけれど泥の中はべたべたと不快だった。それに・・・誰かが泥の外から呼んでいると思った。
ぱか、と目を開ける。てっきり、図らずも温度の感じられない冷たい部屋の冷えた白い壁が見えるのだろうと思っていた。まさか、そんな。

「・・・・・?」

目を開けて見えたのはクリーム色の壁で痛いほどに目に滲みた。あ、あ、と脳内ですら言葉が出ない。期待に心臓がうるさいほどに跳ね上がった。
すぐ近くに人の息を感じてさらなる期待が重なる。もうこれ以上大きくなると破裂しておかしくなりそうだ。
自分の腹の上あたり、掛け布団の上を見れば何十年以来の金髪が見えて衝動的にそろりと手を伸ばす。夢じゃありませんように、祈りながらそっと触れると沢山撫でたあの頃より幾分固くなっていた。立派に成長したのだと知って嬉しさに思わず笑む。
ワックスで固めたそれをふわふわ触っていると彼の瞼が痙攣した。じきにん、と声がして目を開ける。ああ幾度会いたいと願ったかわからないアイスブルーの瞳が見えた。

「ルッツ・・・・」
「・・・にい、さん・・?起きたのか。どうだ、気分は?」
「・・・お前がいるから、最高。体はあちこち痛くて起きれそうにねえけど」

そうか、弟は笑って水でも持って来ようと階下に降りていった。
壁が壊れて半年ほどは体調はさておき、意識があった。あるとき、ぐしゃりとどうしようもなくただ地面に崩れ落ちたのを覚えている。ああ俺消えるんだと、それなら本望だと、目を閉じて、気がついたらここにいる。


・・・なぜだ。


消えると思ったのに。弟には少し辛いかもしれないが、俺はようやく役目を終えて、この体を手放して、消えてしまうべきだったんじゃないか。ただただ、抜け殻のまま生き延びて、なにもない日々を阿呆のように過ごし、それでいて何の生産性もない。それどころか俺は・・・。

そこまで考えてコンコン、とノックが響く。

「兄さん、折角だから白湯にしたんだが・・・兄さん?」
「あ、・・・ああなんでもねえよ、ルッツ。ありがとな」

上手く笑えただろうか。ケセ、と音だけは鳴らせた喉に暖かくて、するりと染み込む湯を流し込んだ。
こくこく、と飲みながら、弟をそれとなく見る。ああ、隈が酷いなルッツ。
・・・俺がいなくなれば、お前の体調も良くなるんだろうな。




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我が国のバブル景気が崩壊するほんの少し前。11月に各国を巡った衝撃的なニュースからさらに半年。しばらく顔を会わせていなかった友人から連絡が来た。それは私にしたらまぎれもない吉報で、約50年もの間顔を見ることもできなかった想い人と会えるという。今すぐ見舞いに参りますと告げて使い慣れた大きいバッグに荷物を詰めた。


久しぶりに降り立つベルリンは春ということもあり、穏やかな気候だった。あの頃とは全く変わってしまった町並みを記憶を頼りに歩く。そうきっとこの角を曲がれば伝統的なドイツ建築のあの家が見えるはず。
うふふ、と笑い出しそうなのを堪えてくるりと曲がる、その瞬間に大きい何かとぶつかり反動で地面に転げた。

「っ・・菊・・!!?」
「・・・る、ルートヴィヒさん・・?」
「すまない。急いでいて」
「いいえ、お気になさらず。ところで、どうしたんです?貴方がそんなに慌てるなんて」
「・・・・兄さんがいないんだ」
「は?」

友人の口から告げられた言葉はおおよそ信じられるものじゃなくて。電話口で聞いた限りでは衰弱の為、起き上がるのも人の手を借りないといけないということだったのに。よろよろと立ち上がりながらそんなことを思う。

「心当たりと言えば、お前が来ると言った時、少し様子がおかしかったようにも思う」
「・・・私の所為、ですか・・?」
「わからんな。とにかく探してみないことには」
「私も行きます」

私の所為だというなら探し出さないといけない。たとえ嫌われていようとも。



「ギルベルトくーん」

嫌われる心当たりならある。この国が東西に分断されてからこちら、私はずっと彼に手紙を送っていた。他国に頼んだり、重要書類と偽ったり、宗主国の目を逃れて。

「どこにいるんですかー!」

最初は些細な内容だった。お元気ですか、会える日を楽しみにしています、先日ルートヴィヒさんが云々、フェリシアーノ君が云々、とかそういった他愛もない、言葉たちだった。

「出てきてくださーい!!」

彼は文面上、嬉しそうに書類に混ぜて返事をくれた。時折こちらを試すように暗号にしたり。
10年ほどして除々に私の送る文は、会いたいとか、貴方がいなくて寂しいとか、邂逅を切望する内容になっていったと思う。だってあの人は別れる前にまた会おうと、初めて私を抱き締めてくれた。

「あの、すみません、この辺でこんな感じの男の人見ませんでしたか?」

それでも彼は俺も会いたいとか返事をくれた。私はそれが嬉しくてまた手紙を送る。月に1度程度のやり取りではあったけれど、何が起ころうとも緊急に安否を確かめることもできなかったけれど、それが酷く楽しみであった。

「・・・どこに・・行かれたのでしょう・・」

ある時、夜に書いた手紙だったと思う。ソ連の情勢が傾き始めたその頃、私は書いてはいけないことを書いてしまった。「貴方をお慕いしています」と。ポストに投函したその瞬間から後悔し、国家権力を駆使して取り返そうかとも思ったが、そんな根性なしでどうすると己を奮い立たせ。数日後にはどんな返事がくるのだろうと楽しみにし始めた。自分ポジティブ。それが崩れたのは次の月の半ばをすぎた頃だ。いつもなら、返事が来る頃だった。けれど、いつまで待とうとも、その手紙に対する返事は来なかった。ああ、嫌われてしまったと何も届かない郵便受けを撫ぜたのは初夏だった。

「あの川は・・」

前方に見えた川、息を切らせて走り寄ると相も変わらない大きい美しい川で。昔、ギルベルト君と来たことがあり、その折近隣で彼の一番好きなところなのだと教えてくれた。あの時はまだ同盟すら結んでいない師弟の関係で、お師匠さまと慕って歩いていた。思えばあの頃から私はあの人が好きだったのだろう。

「・・・!!!?」

その川に掛かる幅の広い橋。その真ん中に見覚えのある姿があった。私の知る彼は金髪で碧眼だったが、そこにいるその人は銀髪に赤紫の瞳で、けれどもその精悍な顔立ちは間違いなくその人だった。

「あっ・・」

彼はふとこちらに気づいて、その瞳を見開いて。慌てて橋の高い手すりにひらりと飛び乗る。話に聞く衰弱ぶりは伺えない。思い詰めた表情から何をする気なのかわかって、走った。
僅かに躊躇した彼は橋の袂に私が到着したのを視界に入れると意を決したようで、手すりの上に川に背を向けて毅然と立った。

「っ・・ギルベルト君っ!!!」
作品名:恋文。 作家名:桂 樹