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恋文。

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後ろに倒れるように美しく落ちた彼。伸ばした手はもう少しのところで空を掻いて、思わず舌打ちをする。少し後ろに距離を取って走り、手すりに手を掛けた。いっそ小気味いいほどに体がふわりと宙に浮いて少しだけ気持ちがいい。下に驚いた顔の彼がいて、知らず誇るような笑顔が漏れる。


叩きつけられるような音に反して水面は柔らかく、痛みもさほどなかった。水中に入ればすぐに彼の姿は見つかって、泳いで嫌がるその痩せた腕を無理矢理つかんで引き上げる。大きい川ではあるけれど偶然にもその場所は流れが緩やかで岸に着くのは容易だった。

「なんでっ・・・ばかじゃねえのおまえ」

邂逅もとい開口一番、彼が言ったのはこれだ。短い前髪から水を滴らせて信じられないものを見るような目で、でもどうにも、泣きそうな顔をして。

「馬鹿は貴方です。なんてことしてるんですか、そんな体で」
「別にいいだろ!俺が自殺したってお前は、お前は別に・・っ」

もしかしたら泣いていたのかもしれない。ヒステリックに叫んで彼は私の手を振り払った。

「なんでお前なんだよぉ・・ルッツなら・・・いくらでも振り払えるのによぉ・・」
「・・・私がお嫌いなのは存じ上げています。でも、目の前で飛び込まれたら、助けないわけにはいかないんです」
「お前が・・・きらい・・?」

眉を顰めて険しい顔をする。あからさまに嫌いと言われた気がして少しだけ目眩がした。
ふとぽつりギルベルト君が声を発した。

「・・・きらいなんがじゃねえ」
「・・・・はい?」
「嫌いなんかじゃねえんだ・・・。むしろ・・・俺はお前が好きだ」
「え」
「お前の手紙だって・・・読んだ。すげえ嬉しくて、東ドイツになってから1番嬉しくて・・・返事、書こうとしたんだ」
「・・・ギルベルト君?」
「でも・・・俺・・・ごめんな。俺はお前の気持ちに応えられねえよ」

涙の混じる声でそう言って、彼はふらりと座り込んで気を失った。元々立ち上がることもできない体だったのだから当然といえばそうなる。ぐったりと崩れ落ちた体を支えて、背中に背負った。何か掛けてあげられればよかったが生憎自分もずぶ濡れだ。




「菊っ!?兄さん・・!!な、なんでずぶ塗れなんだ2人して」
「ええ、ちょっと思い詰めたようで」
「・・・とにかく、着替えよう」

ギルベルト君を着替えさせ、2階のベッドに寝かせる。そこまで見届け、自分もシャワーを借りて着替え、私とルートヴィヒさんは1階のリビングでようやくゆっくりお茶を啜った。

「兄さんが・・川に・・?」
「ええ。・・・死んでしまいたかったのだと思います」
「しかし・・・俺達はそんなことでは死なない」
「・・・できないとわかってても死にたかった。あるいは、形骸化したらしい体なら死ねると思ったのかと」
「・・・なぜ・・。死ぬ理由など・・」

ルートヴィヒさんが顎に手を当て考え出す。ああその癖はお兄さんにそっくりだ。よく見ずともこの兄弟は酷く似ていると思う。今だって顔立ちは似ている。髪と目の色を除けば。昔は薄い色の金髪だった。昔は我が国でも高貴な色とされた紫眼だった。

一体あの国で何が。

深い思考に埋まろうとした時、上の階でばたん、と音がした。丁度真上はギルベルト君の部屋で察したルートヴィヒさんと上へ駆けあがる。
部屋を軽くノックして返事も待たずに開けると床にギルベルト君が横向きに転がっていて、荒い呼吸を繰り返していた。

「何をしてるんだ貴方は!今までこんなこと・・!!」
「・・ルッツ」
「・・?なんだ、兄さん」
「悪いけど、お前は出ててくれ。菊と話したいことがある」
「・・・・どうする、菊」
「・・・ギルベルト君、貴方が大人しくそこで養生し、健康体を手に入れ、生きていくのなら、その申し入れを聞きましょう」
「は・・・どの道そうするつもりだろ・・いいぜ」

不適に笑った彼をベッドの上に戻し、ルートヴィヒさんは犬の散歩に行くと言って席をはずした。ギルベルト君がベッドのヘッドボードに寄りかかるようにして座る。

「・・・・なんでしょう。私と話したいこととは」
「さっきの続きだ。俺はお前の手紙を受け取った。・・・全部な。壁崩壊の直前まで」

彼が言うように自分は彼に手紙を送り続けた。慕っていると告げたのはただの1度だったけれど。それらも結局返事は来なかった。

「・・・でしたら、気持ちが悪いの一言でも返してくだされば途中でやめましたのに」
「そんなこと言ってねえだろ・・!!いいか、これだけは言っとくぞ。俺は、お前の手紙が迷惑だなんて思ったことは一度もねえ」
「・・・・・だというなら・・・。私は・・」
「・・悪い。返事は、できなかった」
「なぜです。そこまでお忙しかったと?」
「それは・・だってできるかよ。お前に黙って、・・・・俺は丁度あんときから、何人もの男に抱かれてたんだぜ?」
「・・・え?」

驚いて、顔を上げれば自嘲的な笑みを浮かべたギルベルト君。平然と言っているが視線が定まらず、あちこちに泳ぐ。手は震えてシーツを握りしめていた。額には先ほどまでなかった汗。
まさか、と嫌な予感が背を伝う。

「3日に1度くらいだ。いつもイヴァンの目をすり抜けて、俺を見つけてくる。暗い倉庫みたいなとことか、時々は俺の部屋とか。最初は薬を嗅がされて抵抗ができなかった。その次の日に、お前が好きなあいつに事細かに書いた手紙送ったって言われた」
「・・・それは」
「ああ、お前との手紙が見つかった。そんなの嘘だと思ったが、確信もない。せめて返事を書きたかったが、自分の浅ましさや厚かましさ、それに本当に知られてたらと恐怖に手が震えて字にならなかった」
「で、でも私はそんな手紙・・・っ」
「ああ。何ヶ月かして、お前からまた手紙が来て、少なくとも、手紙をくれるくらいには嫌われてないんだとわかった。でも知られていないって確信は持てなかった。・・・・だから、返事もかけなかった。ごめん」
「だから、死のうと・・・?」
「元々、生きて帰る気はなかった。あっちで死んでヴェストの糧になれるならそれが本望だったからな」
「・・・」
「それに俺はどうしても自分が許せねえ」
「? 許せない・・?」
「・・・・繰り返される行為、俺は段々それに適応して、1ヶ月もしない内に、気持ち良いと、感じるようになった。欲しいと言うように強要されはしたがその通りにした」
「・・・あ・・」
「そんな自分も許せないし、そんな汚い体でいて尚、菊に会いたくてしょうがない自分が許せねえ。売女と変わらねえ身分の奴が一国の要人と結ばれようなんてどうかしてる。それに・・・本当のことを知って今度こそお前に嫌われると思ったら、死んだ方がマシだった」
「ギルベルト君・・・」

ぽつりぽつりと落ち着いた様子で話していた彼は突然、ひしと私の腕を掴んで必死に、泣きそうな声で言う。

「なあ・・!!何も言わなくていいから死なせてくれよ!お前に拒絶されるなんて耐えられねえ・・・!!俺こんなに汚いし、髪も目の色も違っちまった。もうお前が手紙で好きだって言ってくれたところ殆どなくなっちまったんだよ!!」
「・・・・死なせたりなんかしません」
「なんでっ・・・」
作品名:恋文。 作家名:桂 樹