恋文。
「貴方は私のためと嘘をついたのでしょう、また会おうと。でも私にとって貴方のついた嘘は本当なんです。だから今日も、必ず会う気でここに来ました」
ギルベルト君が分断前の最後のとき、私にハグをしながら言った。また会おうな、と。
ずっとずっと50年、その言葉を信じて、嘘だったとしても本当にしてみせると心に決めて。私は待っていた。
唖然とする彼を衝動のまま抱きしめ、努めて宥めるように言った。
「拒絶なんてしません。会えなかったこの間に貴方が変わろうとも、私は貴方を想い続けますから」
「きく・・・」
「それに貴方の中身は変わっていない。精々が多少ネガティブになったくらいで、それで尚こんなにも愛らしい。ねえ、どうか死なないで。私の見つめる先に貴方がいて欲しいんです」
ぎゅう、と力を込めるとふるりと痩せた肩が震えてぽたぽたと液体が落ちて肩が塗れた。
「ほんと・・、おまえっ・・ばかだな」
「ええ、貴方を好いていると気づいたときにそう思いました。叶わない恋だと。もう会えないかもしれない相手に何を想うのかと」
「・・・会いたかった。お前の為なんかじゃない。あれは・・・単に、俺の望みだった」
腕の中の体がもぞりと動き、涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった精悍な顔をにんまり笑わせて彼はいう。
「お師匠さまがいいこと教えてやんぜ?」
「ふふ、はい、なんでしょう、お師匠さま」
「・・・俺も、お前が大好きだ。愛してる。一緒にいたい。もう離れたくない。お前からの手紙、最初の1通から嬉しくて死にそうだった。オシタイシテイマスって書いてあったときちょっと気絶した。・・・すげえ、返事書きたかった。でも書けなくて、嘘で断ることもできなくて、でも怖くて、・・・しんどくて、いつでもお前に会いたくて。壁が壊れて、・・・寝てたらルッツが、菊が来るって言う。途端に怖くなって、ルッツがクーヘン焼いてる間に、逃げた。・・・・ごめんな」
「・・・もうあんなの止してくださいね」
「わかんね。お前が浮気したらまたやるかも」
「50年以上待った私の執念を甘く見ないでください」
瞼に口付けると彼は目を細めて、幸せそうにまた泣いた。