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ふうりっち
ふうりっち
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Private Eyes <依頼編>

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今日も、朝から雨だった。
 小雨であるけれど、朝から降ったり止んだりを繰り返す雨は客足を遠退かせるからあたり好ましくはない。とはいえ,、気まぐれな天気がもたらす雨は、軒先に咲く花たちには恵みともいえるので邪険にするわけにはいかない。
 ここ最近、ずっと晴れ間が続いていたのだから天の恵みを感謝しなくてはならないが、客商売を生業にする手前、やはり晴れてもらわなければ困る。
 店先から見上げる空は鉛色。雨はしばらくやみそうにない。
 天の采配には逆らえないとはいえ、店先を彩る草木よりも豊かな緑を写しこんだように深いグリーンアイズを寂しげに揺らし、小さくため息を零すアーサー。すると店舗奥から水を張ったバケツを抱えた店員の姿を見つけるなり、すぐに声をかけた。

「マシュー、今日はもう上がっていいぞ」

 声をかけたあと、水滴を避けるように軒下に陳列していた鉢植えを片づけ始める。
もうすぐ夕刻ではあるが、今日のように雨がやまない日は仕事帰りの客は望めない。それなら少しでも早く繁華街へ繰り出す方が儲けになる。そう切り替えたアーサーは、準備を速めた。

「今日は、ずいぶん早いですね」

 切り花を活けたブリキのバケツを床へ置き、マシューも一緒になって鉢植えを片付け始めた。

「雨だしな…。早めに外販へ切り替えるだけだ」

 やまない雨を睨みつつ、その方が儲かると短く付け加える。

「アーサーさんて、すぐ金儲けですよね」

 昔から苦労してきたこともあり、アーサーは金銭への執着は誰よりも強い。常に儲かることを念頭におき商売をしている。儲かって当たり前―――という精神は、この花屋を初めてから変わることない。
 それに、最近は口コミでこの花屋もそれなりに知名度が高くなってきたこともあり、大通りから一歩の奥まった立地条件でも客足は徐々に増えてきている。それにマシューが作ったホームページや、アーサーの花に対する知識力が功を奏しているようだ。けれど、それだけでは満足できない。
 日中から夕方は店舗を営む傍ら、夜は軽トラックに花と積み込むと近所にある繁華街―――歌舞伎タウンで商売を始めるようになった。
 夜の繁華街に舞う蝶たちへ花を手向ける客や、店内を華やかに彩る花をアピールする為、あえて値が張る花ばかりを提供すると面白いように売れていく。それはアーサーが持つ美的センスが夜の街で認可されたともいえる。その反面、疲労は著しく増加していた。日中だけでなく夜まで営業するようになってから、疲労感が常にたまっている自覚はあるが、今は体力より金儲けへの優先順位が高い彼だから、日々奮起していた。
 そんな店主の性格を知っているマシューだからこそ、彼の素行をクスクスと笑った。

「当たり前だ! 商売やってて金儲けを考えない奴なんていないぞ!」

 それが持論のようにアーサーは声を大にすると、店先に並ぶ鉢植えやバケツに活けた花たちを店の中へと移動させた。
 店先を彩る花は種類多く取り揃えているので、鉢植えだけを移動させるのも骨が折れる。しかし二人は横並びになり、慣れた手つきで鉢植えを専用の木箱に詰めていく作業に無駄はない。そんな時、人の気配にアーサーが顔を上げてみればで雨宿りするように青年が立った。

「…ずぶ濡れなんだぞ。これだから雨は嫌いなんだ」

 滴を払うように掛けていた眼鏡を外すだけで少年特有の幼さと、反して、青年へ変貌する途中の曖昧な甘いフェイスを持つ姿にアーサーは一瞬見惚れていた。しかし、すぐに意識を取り戻すと、目の前の作業を再開させる。夜の営業まであまり時間がないからだ。

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 青年は人懐っこい笑みでこちらを見ていた。しかも、その声が自分へ向けられていると気づいたのは、青年がすぐ間近まで迫ってきていたから。
 相手の状況など気にする様子など微塵も感じさえない相手に、アーサーの口端が引きつるのを感じていたが、それ以上に、予想外に近すぎる距離と相手の行動に驚き、思わず焦ってしまった。

「な、なんだよ」
「ちょっと教えて欲しいんだけど、…この近くに『パブ』はあるかい?」

 まだ未成年と思われる青年は、澱みのない蒼い双眸が語りかけてきた。
 飲酒にはまだ早いと思われる彼。しかし、これは隠語だ。とある特定の仕事依頼を持ち込むとき依頼者が口にすることで、依頼をスムーズに運ぶためにフレーズ。それを知り、また口にするということは、この青年―――依頼者だ。

「オーケー、地図書いてやるから奥へ来いよ」

 マシュー後よろしくと告げ、アーサーは、青年を連れ店舗の奥へと歩みを進めると、後方から尋ねるようなマシューの声が届いた。

「お茶いれますか?」
「いや、いい。すぐ済む」

 短く言葉を返し、アーサーは自分よりも頭一つ大きい青年を連れ奥の事務所へと向かう。後方では青年がもの珍しそうに視線を動かし、店内を見つめていたが、アーサーは静かに事務所のドアを開けた。

「さてと少年、…どこで『ハブ』の話をなんて聞いてきたんだ?」

 年の頃は自分よりも若い。もしかすると、まだ未成年の域を超えていない相手に、アーサーはすぐに不信感を抱いた。
 あの場ですぐに追い返してもよかったが、店先で余計なことを言われマシューに副業をばれたくはなかった。そのため事務所へと案内してみたが、どういった経緯で自分へたどり着いたのか大いに気なるところだ。
 この業界の根底は広く深く、また無数の人脈が蠢めいている。
 金だけせしめる悪徳業者から、人情を糧にする業者など、多種多様な人種が仕事をこなしている。その中で、特定の紹介者なしでアーサーまで辿りつけるはずがない。それだけ『アーサー・カークランド』の顧客になるということは至難といえた。
 アーサーは年は若くとも、調査業としての実績は非常に評価が高い。それだけに依頼者は選りすぐりの上物が付くことが多いことでも知られ、依頼料も破格。調査する側からすれば、大金が絡むのため依頼相手は上流階級と決め、仲介人にもそれは伝えてある。それ故、依頼者は名の知れた政界大物から企業のトップに名を連ねる輩ばかり。身元も素性もきちんとしているが、一方的にアーサーを知るばかりで、身元が知れない、まして見るからに若い顧客に対し、不信感を抱くのは当然だ。
 ただ自分の知らないうちに境界が曖昧になり、誰でも知りえる環境が出来上がっているのだろうか。一度、仲介人に聞く必要があると思っていると、青年が笑っているのがみえた。
 それまで興味深そうに室内を見渡していた彼は、白い歯を見せるように笑っている。笑うと精悍な表情が一変し、幼さが強調されることにアーサの胸が高鳴った。それが何を意味するのか分からない年じゃない。しかし、慌てて首を振り邪念を払う。仕事に私情を持ち込むなんて自分らしくない。
 一度、呼吸を整えてから、青年を見やたった。
 これはビジネスだ。例え若輩者相手でも、きちんと仕事をしてこそ紳士である。
 アーサーは軽く咳払いをしたのち仕事着のエプロンを外すと青年の席をすすめ、彼と向き合うようにソファに座った。青年は、着ていたジャケットをソファの背に掛けると、アーサーと向き合うように座る。

「それじゃ改めて聞くが…」