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Telephone

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そういうやりとりがあった一週間後、ハリーはデスクで不機嫌な顔で仕事に没頭していた。

ガリガリと派手な音を立てて、見積もりの書類に記入している。
減価償却の難しい計算にイライラしながら、心の中でずっと呟いていた。

(ドラコって、やっぱり酷い奴だ!何が電話するだ!今まで一本も、掛かってこないじゃないか、まったく!)
鼻息も荒く、電卓を叩く。

ハリーがこんなに不機嫌なのにも訳があった。
マグル界に移ってきてから、一度だってドラコからの電話がないことに頭にきていたのだ。

掛かってこないので、自分から掛けても相手は出ない。
いくら呼び出しても、朝に昼に夜に寝る前にと、しつこく何度掛けても、相手は一度だって出たためしがなかった。

(きっとドラコは、電話なんか放り捨てているか、忘れ果てているに違いない)
ハリーは不機嫌に、相手のツレない態度を罵る。

(毎日かけてくれなくても別にいいんだ。でも、たった一回くらいは、僕のコールに出てくれてもいいじゃないか。別に減るもんじゃないし!)
未練タラタラで、相手のことを思い描く。

ドラコの輝くような色の薄い金髪と、銀の瞳が思い浮かんでは消えていく。
自分はこんなに思っているのに、相手はそう思ってもいないのかもしれない。
ふっと不安が沸いてくる。

そんなとき、ハリーの携帯が鳴った。
相手はもちろんドラコからだ。
ハリーは慌ててそれを開き通話ボタンを押すと、聞きなれた声が耳元に流れ込んできた。

「あっ、ハリーか?」
「ああ、そうだよ」
間髪いれずに、急きこむように答えた。

「へぇー……、本当にこんな小さな機械でも通じるんだ」
感心たしような声とともに、話の続きを喋っていく。
「明日、金曜日だから、夜にはこっちに帰ってくるんだろ?だったら帰りに、ダイアゴン横丁に寄って、フォーリシュ・アンド・ブロッツ書店に行ってくれないか?予約していた本が届いたらしいんだ。ミミズクに運ばせようにも、重くてダメらしい。だから、君にお願いするよ。それじゃあ」
用件だけを一方的に告げられて、電話は切られてしまい、あとにはただの『ツーツー』という音のみが残っただけだ。

ハリーは目をしばたかせて、切れてしまった携帯を見つめる。
無言の数秒が流れていく。

隣のデスクに座っていた同僚が気の毒そうに声をかけた。
「どうしたんだ、やっと待っていた電話だったのに、やけに早いな。恋人とケンカでもしたのか?」
「……いや、ケンカ以前に、用件だけ告げられて、一方的に切られたんだ。帰りに本屋へ寄ってくれって言われただけだよ」
「そりゃ、ご愁傷さまだね」
肩をすくめる。

「──いや、それでも……」
と小さく呟く。

ハリーはご機嫌な顔で仕事に取り掛かりはじめた。
急いで仕上げようと心に誓う。
定時に絶対に帰るんだと決心する。

ドラコの声が聞けただけでも嬉しかった。
自分のことを忘れた訳じゃなかった。
言葉が短かくてもよかった。
たとえ五日ぶりの恋人からの言葉が、使い走りの用件だったとしてもよかった。
一瞬で、心が和んでくる。
幸せな気持ちが湧き上がってくる。

少し膨れた左胸のポケットをたたいてご機嫌な顔で頷き、笑顔を浮かべてこう思ったのだった。

「やっばり、こういうのって、理屈じゃないんだよなぁ」と。


    ■END■
作品名:Telephone 作家名:sabure