Telephone
ハリーは体をひねり、ドラコの背中に手を伸ばして、自分の胸の中へと引き寄せた。
「淋しかったんだ……」
「分かっているさ。僕も同じ気持ちだ」
静かにドラコは答える。
「君のいない世界なんか行きたくない」
「だけど、魔法界はうんざりしているんだろ?」
コクリと素直に頷く額に、ドラコはキスをする。
「だったらグズグズ言わないで行ったらいい」
まるで、幼子を諭すように、やさしくドラコは言う。
「でも、君は来ないじゃないか」
ハリーは恨めしそうに相手を見上げた。
「僕がマグル界に行けないことは、君も知っているだろ、ハリー?僕は闇の陣営にいたから、職種も、住む場所も、魔法省から限定されいるのに、いっしょに行ける訳がない」
「――だから、それは僕が魔法省に働きかけたら、なんとかなるって、いつも言っているのに……」
「規則でコチコチの役所が、おいそれと君の願いを聞くわけがないだろ。裁判でも起こさないかぎり、規則は曲げられないぞ」
「裁判してもいいよ。僕が君の弁護人になるし」
「ハリー……、いつも言っているだろ。僕は目立つことが、とても嫌だってことを」
「君の自由が手に入るのなら、それでも――」
ドラコは首を横に振る。
「第一、もし裁判に勝ったとしても、僕は絶対にマグル界へは行かないからな」
きっぱりと言い切られて、ハリーはがっくりと肩を落とした。
あまりにも落ち込んだ顔をするので、ドラコは元気付けるように、うなだれた背中をポンポンと叩く。
「なにも永遠の別れじゃあるまいし。一週間のうち、たった5日間くらいだろ?君がマグル界にいるのは。休日はこっちに戻ってくるから、別にいいじゃないか。これまでだって、お互いに忙しくて、週末くらいしか会わなかったんだし」
気軽に言うドラコを尻目に、ハリーは不満タラタラだ。
「でも、ドラコ。やっぱり魔法界とマグル界は、結構距離があるじゃないか。箒に乗って隣町へ行くって感じじゃないし。フルーパウダーもいきなりは使えないし、煙突を繋ぐのだって、いろいろややこしい手続きが必要だし……」
うーっと低くうめく。
「それでも、君は魔法界よりもマグル界へ行きたいんだろ?」
「ドラコがいっしょに来てくれたら、話が早いんだけど……」
「裁判をして、ひと悶着を起こして、しかもそのあいだに、ゴシップ記事に追いかけられて、しかも最後は、自分が望んでもいない、大嫌いなマグル界へ行くなんて、真っ平ごめんだ」
あっさりと言い捨てられる。
ハリーは『はぁー……』とため息をついた。
結局、最後に折れるのはいつもハリーだ。
ドラコに敵うわけがない。
多分、ドラコと付き合い続ける限り、ずっとハリーは負け続けるだろう……。
「君の言うことは分かったよ、ドラコ。君の言うとおりにするよ。でも、週末はこのグリモールド・プレイスの家に戻ってくるから、君もここに泊まりに来て欲しい」
「ああ、分かっているよ」
ドラコは目を細めて頷く。
「でも、やっぱり、この電話だけは持っていて欲しいんだ。これがあれば、いつでも連絡を取ることが出来るから、ぜひそうして欲しいんだ」
それが折れ続けているハリーが出した、唯一の条件だった。
真剣な顔で請われると、ドラコも差し出されたそれを受け取らないわけにもいかない。
気乗りしないままそれを受け取ると、ドラコはジャケットの胸ポケットに携帯を滑り込ませたのだった。