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想いの行方

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01



―――矛盾している。


またしても喧嘩をして帰って来た燐の怪我を、慣れた手付きでいつもの様に手当てしながら、雪男は思う。

こうして傷の手当てをする時だけは大人しくてしおらしい、双子の兄。
勉強はまるで駄目なくせに、料理の腕前だけはめきめきと上達させた。
もう慣れた――なんて諦めたような顔で言いながら、「悪魔の様だ」と言われて傷ついていることも、何度注意しても喧嘩してくるのにはちゃんと理由があることも、本当は知っている。
口が悪くて乱暴者だけど、意外に繊細な所もあって、本当は優しい。

そんな兄へと向ける感情が、世間一般で言うところの兄弟愛ではないことに気付いたのは、いくつの頃だっただろうか。
もう10年近くこの想いを抱えているのだから、随分と早熟なことだと、我ながら思う。

小さな頃は心も身体も弱くて、季節の変わり目なんかにはいつも体調を崩していたし、虐められてはよく泣いていた。
そんな時はいつも自分の傍にいてくれたし、傷を負ってまでその背中に庇ってくれた。
そんな、自分に出来ない事を成し遂げる強い兄は、いつだって雪男の憧れで、特別だった。

幼い頃はただ純粋に、兄として慕っていたのに……いつ頃からか、その想いのカタチが変わっていった。


<未完>
作品名:想いの行方 作家名:焚壟 葵