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【サンプル】Giorni calmi

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 新宿某所。高層マンションが連なる一角にそれはある。
 とある高級マンションの最上階にある一室、知る人ぞ知る、情報屋折原臨也の事務所兼自宅のひとつ。常日頃から悪名高い情報屋の部屋ではさぞかし悪だくみがされていることだろう――彼を知る者ならば少なからずそんな憶測を巡らせるに違いない。
 勿論その想像は正しい。だが、事実と想像が異なることもよくあること。
 今現在、この部屋では一つのほのぼのとした光景が繰り広げられていた。……当事者たちにとっては、そうでもないかもしれないが。


 気候も大分春めいてきたとある日の昼下がり。昼食を取り終わった臨也は何気なしにテレビを見ていた。特に目新しい情報はないのだが、池袋の特集を組んだ生番組と言うことで何か面白いものがあるかもしれないと思ったのだ。助手が淹れた食後のコーヒーを味わいながらふと気付く。
 先ほどから傍らにいたはずの存在が見えない。そういえば本を取ってくると言ったまままだ戻ってこない。
 視線を部屋へと巡らせるがあいにく見当たらない。どうやらリビングにはいないようだ。波江はと見るがあいにく彼女もキッチンに立っており、しかもこちらに背を向けている。必然、望む答えは得られそうにない。
 ちっと舌打ち一つして立ちあがる。テレビが何やら喧騒を映しているがもはやそれには興味がない。番組よりも今は相手を探す方が優先される。なにしろあの子とくれば目を離した隙に何をするかわかったものではないのだから。
 立ち上がりついでに置きっぱなしになっている、中身が空のマグカップをキッチンへと放り、階段を上がった。些か乱暴な仕草に波江が非難の視線を向けるが無視。やがて並び立つ書棚の合間へと視線を走らせれば、目当ての人物はそこにいた。
 書棚と書棚の隙間、暗がりに頭を突っ込んで小さな子どもがこしょこしょと何やら呟いている。僅かな明かりも見えるので、また何を悪だくみしてるのやらと自らを棚に上げて臨也は呆れた。
「帝人くん? なにしてるの」
 名を呼んでやればびくぅ!っと過剰なまでに肩を震わせて子どもは背後を振り返った。相手がわかったと同時にほっとしたが、すぐさましまったと顔を歪める。その反応こそが如実に子どもの思考を知らせてくれる。とにかく帝人は顔に出やすいのだ。
 わざと笑顔で問いかける臨也にそれでも緊張が多少解かれたのか、帝人は言い淀みはしなかったものの、それでも立ち上がってとてとてと臨也へと近寄って来た。
「あっみつかっちゃった。……えと、おべんきょです!」
「うん、その間がなければ信じてやってもいいんだけどね。見たところ本も開いてないみたいだけど、一体何を勉強してたのかな?」
「え、えっと、えっと、さいけさんにおしえてもらってたんです!」
「へぇ、何を?」
「たくしーののりかた、です」
『わぁ、言っちゃだめみーくん!!』
 臨也の声に非常によく似た叫びが帝人の手元から聞こえ、子どもの回答と合わせて案の定ろくでもなかった、とため息を吐いた。心底頭が痛い。
 子どもは対照的に手元の端末を覘きこみ、え、だめなの?と呑気に聞いている。だめだよ!と端末から声が返るが帝人は何故か判らず小首を傾げている。
 傍目から見れば子どもがかわいい仕草をしているだけなのだが、内容が非常にろくでもない。何故片手の指の数にも年齢が満たない幼児がタクシーの乗り方を勉強していなければならないのか。
「……サイケ、お前何ろくでもないこと吹きこんでるの」
『ろくでもなくないよ! 酷いよ臨也くん! だってみーくんが池袋に行きたいって言うから仕方ないんだよ。電車だと危ないでしょ?』
「だからってタクシー? 行かせるなよそもそも」
「いっちゃだめなんですか?」
「駄目なんだよ。俺か波江と一緒じゃないと行けないよって教えただろ?」
「だって、くるねえとまいねえがおいでって。いけぶくろはいっぱいおもしろいことがあって、きっとみかどもきにいるよって。さいけさんにおしえてもらえばみかどひとりでもこれるよって」
「あいつら、ホントろくなことしないな」
 教えるんじゃなかったと呟いても後の祭り。双子の妹たちは一度気に入った相手をそうそう手放すはずもない。好みは血筋かと呟いて、臨也は帝人に手を伸ばして抱き上げる。急に視点が変わったことに驚くが、嬉しそうに帝人は臨也へくっついた。首に手を回してしがみつき、愉しそうにけらけら笑う。
 懸念材料はと言えば帝人が片手に持った端末――スマートフォンだけだ。携帯一台壊そうとも臨也は痛くも痒くもないが、それは帝人のお気に入りなのだ。無くしたときは大騒ぎだったし、破損などしたら今度こそ目が溶けるくらいまで泣くだろう。それは避けたい。
 落とさないでねと声をかければおとしません!と子どもは叫ぶ。はいはいと背中を叩いてやれば心地よかったらしくにこにこと子どもは上機嫌でしがみついた。
 暴れるでもなく、大人しく子どもは腕に収まり周囲を見ている。それでも気をつけながら階段を下りれば、丁度キッチンから出てきた波江と視線が合う。どことなくほっとした様子の彼女に良くも悪くも絆されているようだと笑う。それは自分もかと苦笑に変えて。
「あら、今日はまだ家の中に居たのね」
「いたのー! でもみかど、いけぶくろいきたい!」
「駄目って言っただろ。なんでそんなに池袋に行きたいのさ」
 確かにあの街は面白おかしいことに溢れているが帝人がここまで興味を引かれるようなことがあったかと内心首を傾げれば、丁度いいというべきか、素晴らしいタイミングでつけっぱなしのテレビから悲鳴が上がった。尋常じゃないレポーターの悲鳴に何事かと三人の視線が一挙にそちらに奪われる。画面の中では臨也にとってはお馴染の、池袋の住人にとってはもはや日常茶飯事になり果てた自販機が宙に浮く姿。
 当人が映っていないとしてもうんざりとしてしまう。自販機が宙に浮く光景など作れる輩なんぞたった一人しか思いつかない。シズちゃん本気で死ねばいいのにと心底思う。
 だが今腕に抱いているのは年端もいかない幼子、教育上悪いと思って口には出さない。前に一度口にしたときは波江から非難の眼差しだけではなく実力行使まで伴った忠告を受けたことは忘れていない。でも本気であいつ殺したいと臨也は内心叫ぶ。しかし彼の我慢とは裏腹に、腕の中の子どもは目をキラキラさせてテレビに釘付だ。
「すごい! ほんとにとんでる! さいけさんがいったとおりだ!」
『嘘じゃないでしょー。でも危ないからみーくんは近寄ったら駄目なんだよ』
「ちかよらない! でもみかどあれみたい!」
 非常に矛盾したことを叫ぶ帝人は年齢に似合わず好奇心旺盛な子供だ。だがよりにもよってあれを見たいとは。
「今見たでしょ」
「もっとちかくでみたいんです!」
「潰されちゃうよ。シズちゃんは頭に血が上ったらそれ以外何も見えなくなる単細胞生物なんだから」
「たん……?」
「それにサイケ、お前何した。シズちゃんが自販機投げてるところなんて見せたことなかったはずなのに」
作品名:【サンプル】Giorni calmi 作家名:ひな