Complicated GAME
Act.0 Dimbula
否定、肯定、
人を狂わせるノイズ。
何を信じられる?
何が信じられる?
何を、信じたい?
自問したって、答えなんて出るはずない。
分かっていたって、やめられない。
だから、これもみんなゲーム。
ぜんぶゲーム。
さあ。
今度はだれの番だ?
*
「へっへ〜ん……」
かしゃん、と何かが頭の中で嵌まる感じ。
悪くない。
「ま、のんびりやってみろよ? 時間ならたっぷりあるんだぜ〜」
『――────―』
「ん、ああ……心配すんなって。こっちでうまいことやっといてやるって。まあ、平気だろ。多分な」
『――──―』
「おお。Good Luck! だぜ〜」
ぷつん、と回線が切れると同時に、軽く耳元が粟立つ。
静電気の感覚は、割と嫌いじゃない。
「……ま、これでようやくはじまりはじまり〜、だな。長かったんだか短かったんだか……いや、やっぱ短いかな、っと!」
ひょい、と勢いをつけて腰を落ち着けていたベッドから飛び降りる。
鼻歌を歌いながら戸棚を物色してストックしてある菓子の類を引っ張り出し、いくつかテーブルの上に放り投げた。
次いで冷蔵庫から、今いるこの部屋の主が昨晩作り置きしていたアイスティーを取り出し、遠慮もなくグラスに注ぎ分ける。
「お? 珍しいな……ディンブラか。あいつ、アイスティーはキャンディで作ることが多いのにな〜」
ほのかに香るバニラの匂いに鼻をひくつかせて、どっかとソファに腰を下ろした。
部屋の主の趣味らしい、ほどよい甘みとディンブラの柔らかな味が口内を満たしている。
それは、この部屋の空気と同じで。
「あいつ、今日は定時に帰ってくんのかね? せっかくの大ニュースが待ってるってのにさ〜」
誰にともなくつぶやけば、応えるもののないのは今までと少しも変わりないのに、ふわりと部屋に拡がる紅茶の香りと、それに違和感なく混ざる家人の匂いとが、やはり違うのだ、と思わせる。
ここは、本来なら自分がいるはずもない……ましてや「滞在」など、しようと思うはずもない、場所だと言うのに。
気がつけば、自分の「テリトリー」として……いつの間にやら定着してしまっている。
そんなことを言えば、この部屋の主は真っ赤になって怒るのだろうけれど。
―――勝手にひとの部屋に住み着くなっ!!
(……とか何とか、言いそうだよな〜)
くくく、と笑いがもれる。
あのからかい甲斐のある顔を思い出すだに、笑えて笑えて仕方がない。こんなに楽しいのは、本当に初めてかもしれない、というほどに。
「せいぜい楽しませてもらわないとな〜」
豪快に、ラム酒漬けフルーツ入りのパウンドケーキの箱を開けて。
紅茶の香りに満たされた、誰もいない部屋で一人、こころゆくまで笑ってみた。
作品名:Complicated GAME 作家名:物体もじ。