Complicated GAME
Act.1 Lapsang Souchong
スモーキーな香り漂う、「東洋の神秘」。
キライな奴には、ただの煙の匂い?
だけど彼らにはそう思えたらしいから。
何でかなんて、知らないけどね。
燻した香りが、
東洋の神秘だってさ。
*
―──―― 似た者同士なんだよ! ……オレたちは
そう叫んだのは、確かに自分だったけれど。
「あ〜あ。つまんね……」
ロンドンの空は今日もユウウツな灰色で。見ているこっちの気分まで滅入ってくる。
こんなものを毎日毎日見ているロンドンの住人は、嫌になったりはしないのだろうか?
「……なるわけねーわな」
そう、毎日毎日、嫌だろうがなんだろうが見るものなのだ。
嫌っていては、きっと話にならない。
好きなのは、晴れの日。
雨は、ずっと屋内にいる日はらばともかく、そもそもはあまり好きではない。
並みのサバイバル用品なんかとは比較にならないくらいの防水加工を施してあるとは言え、相棒の「シン」にとっては、やはり水気というのは命とりなのだ。
だから、というのでもないだろうが、イブカは晴れの日を好む。
例えば、足の赴くままに見つけた、ちいさな公園の芝生に寝転びながら。
例えば、だれも乗っていないローカルな汽車の窓から外を眺めながら。
「シン」にも完全には予測の立てられない、雲の動きを見ているのが、好きだ。
……けれども。
今、窓に目を向けたって、見えるのはひたすら灰色の空で。
「やってらんね〜……」
ごろり、と寝返りを打って、枕元に転がしてあるスナック菓子の袋に手を突っ込んだ。
がさがさと大きな音をさせて、ちょっとしけってしまったポテトチップスを引っ張り出す。それを無造作に口に放り込み、汚れた手はシーツで適当に拭って。
「あ〜あ」
もう一度、イブカはつまらなさそうに息を吐いた。
身体の下でしわになっているのは、部屋の主の性格をあらわすような洗い立てのシーツ。そこに転がるのはイブカで、枕元には半ば放置してあるポテトチップスの袋と何冊かの本。
サイドテーブルには、スモーキーな香りを漂わせていた紅茶のカップ。
いつの間にか馴染んでしまったはずの空気が、今日はどこかよそよそしい。
「……一年半……か〜」
それは、長いような、短いような。
まだまだこどもの域を出ない年齢であるイブカには長い時間ではあっても、退屈だけはする暇がなかったものだけど。
「……暇だ〜……」
のどかな時間も、キライじゃあなかったはずなのに、どうしてか、耐え難い。
それはきっと、予感……が、あるから。
「……散歩でもすっか〜」
寝転んでいたベッドから勢いをつけて上半身を起こせば、よくきいたスプリングが下半身をゆらす。
そこから足を下ろした拍子に、枕元に置き去りにされていたポテトチップスの袋が抗議の悲鳴を上げるように床に落ちた。
けれど、そんなことには頓着もしないでイブカはその部屋を後にする。
スモーキーなラプサンスーチョンの香りと、ふわりと部屋に馴染んだ家人の匂いが、遠ざかった。
「I ask myself should I put my finger …」
薄い口唇をついて出るのは、そんなメロディ。軽い調子で歌われるのは、皮肉のスパイスの効いたフレーズ。
悪くない。
ポケットに手を突っ込んで外に出て、仰ぎ見れば、空はやっぱり灰色のまま、頭の上にのしかかるようで。
だけど、これだってきっと、慣れてしまえばそんなに悪くはないはずなのだ。
「And it's always been the SAME …」
本当に?
(そんなはずないよな〜)
なあ、シン。
空は灰色だけど、そんなのは関係ないって思うか?
ま、そんなんどーだっていいんだけどさ。
きっともうすぐ始まる宴のために。
今はゆっくり、歩いてみたいだけ。
作品名:Complicated GAME 作家名:物体もじ。