Complicated GAME
「おっ!」
「あ……」
思わずもれた声を掻き消すように、もうひとつ、どんっ、と響く轟音。
「イブ、花火だよ!」
「ははっ。イギリスのって、やっぱ日本のとは違うんだな〜。FireWorks、か〜。うん、そんな感じだ」
「日本のは、色とりどりだしね。でもイギリスのだってすごいと思うよ」
「ま〜な。どっちも好きだし、オレ」
「きれいだね……」
「ああ。……アル、紅茶飲むか?」
「……え?」
途切れることなく上がる炎の花を横目に、ごそごそと何かしていたかと思えば、アルの鼻先ににゅっと湯気を立てるあたたかいカップが差し出される。
「イブ、まさかこれ……うちから持ってきたのか?」
「あんたと飲もーと思ってさ〜」
「あ、ありがとう」
見れば、それは戸棚にしまいっぱなしで最近その存在を忘れてさえいた、自分の持っていた水筒で。
まるで自分のものであるかのような態度で、イブカはそれからスペアのカップに紅茶を注いでいる。
用意のいいことだ、などと考えながら、アルは渡されたカップに口をつけた。
イブカの好みらしい、アルのそれからすればいささか甘過ぎる紅茶と、その香りを含んだ温かい湯気が、深夜の外出に冷えて固まってしまった身体をやさしくほぐしてくれる。
だれもいないしずかな場所、テムズに映る花火の明かり、視界を煙らせるいい香りの湯気。
「……イブ、ありがとう」
「何がだ〜?」
「この紅茶と……今夜、ここに連れてきてくれたこと」
大きな水筒のカップで、半分以上、顔の隠れたイブカがちらりとこちらへ視線をくれる。
「……べつに〜。オレが来たかったから、ついでだ〜」
ぐい、とカップを傾けた拍子に、首をかしげて笑う拍子に、揺れる前髪が、咲いては消える天上の花のきらめきを映して、まるでまたたく星のようで。
それが、とてもきれいだと。
すとん、と胸に落ちる感情。
「オレが来たかったんだし、オレが見たかっただけだし……オレが言いたかっただけだから、いいんだ」
どんっ、と耳を打つ花火の打ち上げ音に、まるで邪魔されない、
例えるなら、それでも耳に、心のうちにとどくテムズの川の流れる響きのように。
「A Happy NEW Year, Al」
イブカの淹れたイングリッシュ・ブレックファストの香りに乗って、何にも遮られることなく、とどいてしまうことば。
花火に照らされて、途切れ途切れに夜空から浮き上がる、その悪戯を仕掛けたこどもの笑顔に、こたえるように微笑みを浮かべて。
「……A Happy New YEAR, Ib」
笑い合いながら、言える相手がいることが、こんなにもうれしくて。
テムズの川の向こうから、霞にけぶる太陽が現れるまで、まだまだ時間はあるから。
何だかあたらしい、こんな日には。
あたたかい紅茶のカップを互いに掲げながら、
何度でも、言おう。
「「A HAPPY New Year!」」
作品名:Complicated GAME 作家名:物体もじ。