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かわいいひと。

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だから臨也のこの反応には驚いた。
直撃って、きっとペットボトルの事じゃなくてアレからの攻撃のことなんだよね?
「臨也さん、ひょっとして、」
「怖いんじゃないからね! 苦手なんだよ、そう、苦手!」
「苦手、…ですか」
「動きが気持ち悪いでしょ。ありえないでしょ。壁を這ってたと思ったら、いきなり飛んでくるんだよあいつら!!」
怖くないという割に涙目なのがなんだか可愛い。…いやコレを可愛いってどうなの。でも、ちょっといじめてみたくなる反応だ。実行したらあとで酷い目に遭わされるのでやらないが、もうちょっとくらいならつついてみても大丈夫かもしれない。
そんなことを考えながら、やっつけたそれを始末しようと触覚を指でつまんで、―――振り返った途端再びけったいな悲鳴が狭い部屋に響き渡った。
「だからありえないんだって! なんなの、なんで手で掴んじゃってんの!!?」
「…って言われても、だって、これ捨てないと」
「ゴミ捨てるまでそのままなんだよ、同じ空間にいるんだよ、ゴミ箱はダメ! 絶対ダメ!!!」
「でもこれ死んでますよ?」
動きがダメという主張はいったいどこへ行ったんだろう。かざして見せると、今にも泣きそうな顔でぶんぶんと首を振っている。
可愛い。どうしよう、これすごく楽しい。
ちょっとだけ臨也の気持ちがわかってしまった。涙目で睨まれると、嗜虐心とまではいわないけれど、もうちょっとだけいじめてみたい気分になる。追いつめて、泣く姿が可愛くて、ついからかってみたくなる。
「やっぱりこ、」
「怖くなんかないからね! そう、見た目が嫌なんだよ! 地味なくせに妙に目立つのが鬱陶しいっていうか!!」
「見た目って、…黒一色ですよね。無駄に目立つとか鬱陶しいとか、臨也さんそっくりじゃないですか」
「ちょ、なに、俺ってどんな認識なの!? てか、やめてやめて、それ近づけないで!!!」
持ったまま近づけば、臨也がもう下がりようもない壁に必死で張り付く。どうやら本当にこ、…苦手らしい。かといってこのままずっとコレをぶら下げているのも嫌で、帝人は仕方ないと溜め息を吐いた。
「じゃあ外に捨ててきますから。それならいいですか?」
「その辺じゃダメだよ。ちゃんと道路向こうの、草むらとか見えない場所に捨ててよね!」
「はいはい」
逆らうのも面倒で、帝人は靴を履くとアパートから少し離れた場所まで歩いて、その道路わきの草むらにそれを落とした。やれやれと部屋に戻ると、臨也はまだ壁に張り付いて帝人を怖々窺っている。
「臨也さ、」
「手洗って! ちゃんと石鹸つけて、爪の中も洗って!」
「石鹸なんてないですよ。水じゃダメなんですか?」
「この際食器用洗剤でもいいから、ちゃんと洗って!!」
触った手で触られるのも嫌なんだろう、というのは想像がついていたので、帝人は言われるままに洗剤を手にかけた。指先も爪のなかも、時間をかけて丁寧に洗う。
「はい。これでいいですか?」
水気を拭いて両手を広げて見せる。取れたかどうかではなく、要は臨也が納得すればそれでいいのだ。
その手を見つめていた臨也が、怖々と帝人の手を取る。眉間にしわを寄せたまま検分すると、はあ、と大きく息を吐き出した。どうやら合格らしい。
「うん、いいよ、ひとまず合格」
「はい」
「じゃ、いこっか」
「はい、…え?」
どこに、とか、なんで、とか。疑問を口にする間もなく、帝人の身体を抱えた臨也が部屋を飛び出していた。肩に担がれたまま大通りまで運ばれ、停めたタクシーの後部座席に問答無用で放り込まれる。
「臨也さん!」
「部屋は朝イチで消毒するよう、業者には頼んどいたから。教科書はこれ。朝はちょっと早めに出れば、十分試験には間に合うでしょ。ホントに本気で邪魔はしないから安心して? とにかくあの部屋はダメ。消毒するまでは帝人くんも出入禁止。1匹出たら100匹はいるんだよアイツら、無理無理、あんなところでひと晩とか無理、絶対無理!!」
どうやら本当に、ただアレから逃げたいだけらしい。
だからってここまでやるってどうなんだろうと思わないでもないけれど、結局のところ、そんな臨也を放り出して帰ろうとは思わない自分も大概終わっているのだろう。
だって仕方がないじゃないか。潤む目で必死に訴える彼を、可愛いと思ってしまうのだから。


作品名:かわいいひと。 作家名:坊。