【臨帝オンリー】猫がいる生活【サンプル】
猫を拾って一週間ほど経った。改めて考えるまでもないが臨也は何なんだろう、と帝人は思う。
臨也は見た目が人間そのものだが頭に存在するのは猫耳、そして臀部に尻尾。公園で拾った時はブランコに乗っていたし、家に連れて来るまでも普通に二足歩行で来たから人間と同じ様な動きはできる。だけど基本的に帝人の家にいる時はもっぱらごろごろと寝転んでいるか、床に手足をついて四足歩行。その方が楽みたいだ。
ご飯は帝人が作ったものを食べる。人間が食べるものと同じもので大丈夫……だと、思う。一応ネットで調べた猫が食べてはいけないものは与えていない。
目の前でおいしそうにアジフライを食べる臨也を眺めながらため息をつく。ちなみに箸は流石に使えないらしく、簡単なものはフォークやスプーン、食べ難いものは帝人が食べさせてあげている。「はい、あーん」をする初めての相手が猫耳男というのは何とも複雑な気分だ。
「一回ちゃんと検査してもらった方がいいよね……」
「にゃ?」
もぐもぐと咀嚼しながら不思議そうに自分を見つめる臨也の頭に手を置き軽く撫でながら、帝人は知り合いの姿を思い浮かべた。
「すみません、新羅さん」
「いや、セルティが仲良くしてる帝人ちゃんの頼みだしね。気にしなくて良いよ」
翌日帝人が臨也を連れて訪れたのは、友人であるセルティの暮らす岸谷家だった。明らかに普通の人間じゃない臨也を病院に連れていくことはできず、思いついたのが新羅に見せる事。
ネットを通じて知り合ったセルティはリアルでも交流を深め、今まで何度か彼女の家を訪れていた。その際に、セルティの恋人で闇医者をしている新羅とも顔を合わせていた。
「それにしても……興味深いね。普通の人間に見えるのに猫耳、尻尾付き。まさに奇々怪々、奇想天外。二次元の具現化だね。まぁ、残念ながら身体は美少女じゃないけど」
『新羅!そんなこと言ってないで早く診察してこい!』
「わかってるよセルティ!それにしても猫耳……セルティのヘルメットとお揃いだなんて少し羨まし」
『新羅!!!!』
「行ってくるよ!じゃあ、猫君……臨也だっけ?こっちに来てくれるかな」
「にゃ……」
訝しげに新羅を見る臨也の頭を安心させるように、ぽんぽんと軽く叩く。
「大丈夫。行ってきて……ね?」
「にゃーお」
不服そうに眉尻を下げながらも、大人しく新羅に連れられていった臨也を見送り、帝人は彼らの検査が終わるまで、セルティとのお茶会を楽しむことにした。
「結論から言うと、身体の組織は人間そのもの。だけど、外見に加えて眼球や身体の反応の仕方を見ると、元は猫みたいだね。大方、どこかの研究所で実験されてた猫が研究の末、突然変異を起こして人間体に変化……なんて、言ってる僕もにわかには信じられないことだけど、そんな感じなんじゃないかな」
「実験動物……ですか」
「詳しいメカニズムはわからないけどね。もっと詳細を調べるなら父さんの研究施設で検査を」
「け、結構です!」
『そうだぞ新羅!森厳に任せたら私の時みたいに、解剖とか言い出すに決まってる!』
「解剖……」
臨也がどうなってしまうのかゾッとした帝人が、堪らず側にいた臨也の服を握りしめる。不安そうに自分を見つめてくる帝人に、臨也は不思議そうに首を傾げ、慰めるように帝人の頬をぺろりと舐めた。
「大丈夫!僕だって鬼じゃないから父さんには言わないよ。セルティも帝人ちゃんも望んでないしね。とりあえず、人間と同じように生活して問題ないと思うよ。学習能力はあるみたいだから、しつけだと思っていろいろ教え込めばいいよ」
「そう、ですか……」
新羅の言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「あの、ご飯とかも僕と同じもので大丈夫でしょうか?」
「そうだな……特に問題ないと思うけど、アレルギー関係も含めて、猫と同じく魚が好き……なのかは実際確かめてみなきゃ分からない」
というわけで、帝人はその日新羅達と露西亜寿司の出前を取り、夕食を共にすることにした。
帝人達が食べる分とは別に用意した、特上刺身を臨也は美味しそうに食べている。勿論、帝人から「はい、あーん」をしてもらって。
「魚……好きみたいですね」
「そうだね。しかも高級嗜好?舌が肥えてるみたいだね、こいつ」
「にゃー」
「……僕の家より新羅さんの家にいたほうがおいしいもの食べられるんじゃ」
「にゃ!?にゃーお!」
臨也は帝人の言葉に慌てて目の前に座る小さな身体に抱きつく。捨てないでと力いっぱい抱きしめてくる臨也の姿に、帝人は心が温かくなり頬を緩ませる。
傍から見ていて、青年が女子高生に猫耳コスプレで抱きつく姿はシュール以外の何物でもない、というのは心の中に閉まっておこうと新羅は思った。
「臨也……」
「にゃー……」
「いやぁ、彼も君の側が一番みたいだね!というか、僕もそんな猫はいらないよ!セルティとの二人だけの愛の巣だしぐはぁっ!セ、セルティ照れ隠しが痛いよ!」
『恥ずかしい事言うな!帝人……あんまり無理するな?もしそいつが不満を言ってきたらいくらでも私達を頼ればいい。食事ぐらいなら一緒に食べれるし。なんだったら帝人がうちの子になればいい!そうだ、それがいい。そうしよう!』
「セルティがお母さんで、僕がお父さん!帝人ちゃんが娘で、ペットまでいるなんて、円満具足!幸せな家庭を築けるよ!」
「えっと……善処します」
「フ――――ッ!」
楽しそうに提案してくるセルティ達に帝人はどう反応すればいいのか困ってしまう。臨也も帝人を取られるのではないかと二人を威嚇しているし、帝人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
【いろいろ知った日】
作品名:【臨帝オンリー】猫がいる生活【サンプル】 作家名:セイカ