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ねぎにゃん
ねぎにゃん
novelistID. 26676
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酔いどれ

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「すまない、昨日はずっと、息子の相手をしていたものだから。・・・悪いが
少し、このまま寝かせてくれないか・・・」
語尾が弱まり、同時に、海江田の目蓋がおりた。身体がぐったりと
ソファに沈み、すぐに小さな寝息が聞こえ始める。
海江田が職業柄か寝つきがよく、効率良く短時間で深い睡眠をとるのを
山中は知っている。“少し”眠ると言うのなら、ここで起こして無理に
寝室へ──この場合、山中は自分のベッドを提供するつもりでいるの
だが──案内するまでもない。
タオルケットを出してきて、海江田の身体に掛けてやる。
山中は普段よりは明らかに酔って帰宅して、それからも数本のビールを
空にしたが、これくらいのアルコール度数ではちっとも酔えなかった。
海江田の寝顔を見つめる。艦長室での彼よりも若く無防備に見える。
こんなに眠れないのでは、明日も休暇であるのが有り難かった。
海江田の夫人は、夫が無断で外泊をしても夫を信頼しており不実を
疑ったりしないのだろう。

自分のほうが、先に海江田を見つけた。

海江田が結婚したと知ったのは、式から数ヶ月、後のことだった。
その頃は彼の直属ではなく、すれ違えば挨拶はするものの、親しく
会話する程じゃない。
その程度の付き合いだった。
思えばその頃から山中は海江田に惹かれており、それは純粋に
毛並みが良く美しいものへの憧憬の念だと思っていた。
こうして彼を自宅へ招き、自分の前でうたた寝をしていたって
海江田にとって山中は同じ職場の一部下に過ぎない。
いつまで同じ所で勤務していられるかも分からない。
海江田は仕事を終えれば家族の下に帰る。
山中との接点など脆いものに過ぎない。
微かな声と共に、海江田が少し身じろいで掛けていたタオルケットが
肩からずれ落ちた。山中はそれをそっと直してやりながら、海江田の
唇に顔を寄せる。呼気は温かく、アルコールの匂いがする。
もしここで、彼に口づけたら。
ほんの少し先にある海江田の唇に自分のそれで触れ、彼の身体に
体重をかけ抱き締める。
海江田は目覚めて驚いて、山中を信じられないものを見る目で見る。
彼の方が若干、線が細いものの山中とほぼ同じ体格で、まして
鍛えられた彼の身体を組み敷くのは容易いことじゃないだろう。
目的を達したとしても互いに傷だらけで刹那の快楽と引きかえに
今まで築き上げてきた何もかもが崩れ去ってしまう。
海江田は山中の前でこうして眠る事はなくなり、視線を合わせることも、
何もかも、失くしてしまう。
せめて女性ででもあったなら、一夜の情けを掛けて貰えたかもしれない。
海江田が、あの夫人を裏切ることなど、あり得ないだろうに。
別に身体が欲しいわけじゃない。心を伴わない身体ならいらない。
だが心がどうしても手に入らないなら、一度だけでもと求める気持を
止められない。
ぐらりと揺れて咄嗟に支えた海江田の身体の重みと感触が、また手に
脳によみがえってくる。
唇に、そっと指で触れた。肩のかたさとタオルケットから出た指の長い
肌の白い手に触れた。タオルケットを彼に掛け、そうしたら離れる
つもりだったのに、山中は海江田の側のカーペットに座り込み、彼の
顔を、姿を眺めた。これ以上、何も出来ないし、してはならない。


目覚めると、海江田が座るソファーの肘掛に腕を掛け、そこに頭を
乗せるようにして山中が眠っていた。自分の身体にだけタオルケットが
掛けられている。カーテンの隙間から見える外はまだ薄闇に包まれて
おり夜明けまでまだ遠い。海江田は一枚しかないタオルケットを山中の
体にも掛かるようにするため、そっとソファーから滑り降りて眠る山中の
隣に並んで座った。大人の男二人を包むには布が小さく、海江田は
もっと山中の身体に寄った。酔いはだいぶ醒めていた。一眠りして
目覚めた身体には部屋はほんの少し肌寒く、山中の体温が有りがたい。
ここで夜を過ごして、明日の朝、帰宅したら・・・妻のちょっと呆れたような
笑顔を想像して、微笑みがのぼる。
あと、山中の存在。
常に献身的に尽くしてくれる。同性に対して使うのはおかしな言葉だが、
愛しい、と思う。もちろんおかしな意味ではなく。
自分は、恵まれていると海江田は思った。
山中の肩が出ないようにタオルケットで包んでやりながら、海江田は
また目を閉じた。今度は明け方まで眠るつもりで。
おかしさが込み上げてくる。
“やまなみ”でなら、就航中に艦長と副長が揃って睡眠のために発令所から
不在などあり得ない。
初めて訪れた山中の家は“山中らしく”落ち着くところだった。

それが、部屋ではなく“山中がいる”というところに拠っているのだと、
この時まだ海江田は気づかない。

ほどなく、寝息はふたつに増えた。
作品名:酔いどれ 作家名:ねぎにゃん