あなたに幸あれと私は願う
ベルゼブブは差しだされている佐隈の手のひらをそっとつかんだ。
それから、深くお辞儀をするように身を低くした。
「あなたを大切にします」
ベルゼブブは佐隈に告げる。
「私の生涯をかけて」
嘘いつわりのない、心からの言葉だった。
そして、つかんでいる手を顔のほうに引き寄せ、その甲にくちづける。
佐隈の身体が少し震えたのを感じた。
「……それじゃあ、まるでプロポーズですよ、ベルゼブブさん」
「ええ」
ベルゼブブは上半身を起こした。
佐隈の顔を見る。
その頬は朱い。
「プロポーズのつもりで言いましたから」
ベルゼブブは微笑んだ。
直後、なにかが落ちた音がした。
グリモアだ。
佐隈が手に持っていたグリモアを落としたのだ。
動揺しているせいだろう。
ベルゼブブは佐隈との距離を詰める。
「あの、ベルゼブブさん」
すぐそばまで近づいたとき、佐隈が慌てたように言う。
「ひとつ、気になることがあります」
「私の高尚な趣味についてでしたら、最近は悩んでいたせいか、その気にならず、手を出していませんよ」
悩んでいたのは、もちろん、佐隈のことである。
「だから、安心してください」
「……はい」
触れている佐隈の身体は硬い。かなり緊張しているのが伝わってくる。
だが、佐隈は寄せられてくるベルゼブブの身体を押しもどそうとはしない。
「さくまさん」
ベルゼブブは優しい声で呼びかける。
「幸せになりましょう」
そして。
誓いのキスをした。
作品名:あなたに幸あれと私は願う 作家名:hujio