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あなたに幸あれと私は願う

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しばらくして、佐隈の詠唱が終わった。
ベルゼブブは身体に衝撃を感じた。
身体を揺らす。
けれども。
予想していた痛みはなかった。
「……?」
視界に入ってくる自分の身体。
それは、ペンギンのような姿ではなかった。
魔界にいるときと同じの、貴族然とした本来の姿にもどっている。
結界の力が解かれていた。
ここに芥辺はいない。
だから、結界の力を解いたのは佐隈だろう。
佐隈は制裁の呪文を詠唱したのではなかったのだ。
どうして、とベルゼブブは思う。
なぜ、佐隈は自分に制裁を与えるのではなく、自分にかけられた結界の力を解いて本来の姿にもどしたのか、わからない。
「さくまさん」
「さっき、アザゼルさんから全部聞きましたって、言いましたよね」
佐隈はベルゼブブのグリモアを閉じた。
その表情は硬いままだ。
「ベルゼブブさんはアザゼルさんに、自分では私を幸せにすることができないって、言ったそうですね」
「……はい」
たしかに言った。
だが、それがどうしたというのだろうか。
そのことと今のこの状態が、どうつながるのだろうか。
ベルゼブブはその答えを探すように佐隈を見る。
すると、佐隈は挑むような強い眼差しでベルゼブブを見返してきた。
「ベルゼブブさんは、女をなめているんですか?」
「え」
あまりにも予想外な質問に、ベルゼブブは言葉を失った。
佐隈はベルゼブブの回答を待たず、口を開く。
「私はだれかに幸せにしてもらおうなんて考えていません」
堅い表情で続ける。
「私は幸せになります」
グリモアを持っていないほうの手が動いた。
佐隈の手がベルゼブブのまえに差しだされる。
「あなたと、幸せになります」
凜とした声。
その声が、ベルゼブブの耳に、全身に、響いた。
心を打たれた。
佐隈はあいかわらず堅い表情で立っている。
その表情の硬さは、怒っているからだろうと、ベルゼブブは思っていた。
しかし、どうやら違っていたらしい。
怒っているのではなく、緊張しているのだ。
緊張して、あたりまえだろう。
悪魔に向かって、ともに生きようと告げたのだから。
手を差しだしているのは、精いっぱい勇気を振りしぼってのことだろう。
作品名:あなたに幸あれと私は願う 作家名:hujio