DFFで小ネタ
「チョコボ乗りてぇーっ!!」
明るく爽やか……とは言いがたい、曇天の下。無駄に魂のこもった叫びが響き渡った。
青空を溶かして染めたような服とマント、野兎のような茶色の髪。
気ままに風に流される、糸の切れた凧ことバッツである。
何の脈絡もなく放たれた台詞に、何ごとかと視線が集まるが、
「俺はチョコボよりレディに」
「言わせないよ?」
すぐ隣にいたジタンが別方向に話題を打ち返し、どこからともなく舞い降りた聖騎士にマッハで叩き潰された。
やめて、しっぽはやめてと懇願する小猿をさらりと無視(スルー)し、器用に指先でボールを回していたティーダが、そのまま弾き上げたボールをキャッチして話題に乗る。
「にしても唐突っスね〜。バッツがチョコボ大好きなのは知ってるけどさ」
「好きなんて次元じゃないぜ!! ボコは俺の相棒、むしろボコと俺は一心同体! ……なのに、ここには、ボコもチョコボもいないんだよな……」
ああ、チョコボ乗りたい……むしろその背中に顔を埋めてチョコボ臭さを満喫したい、と中毒(ジャンキー)のようなことを言い出すバッツを、慰めるように笑みを浮かべ、セシルがなだめた。
「代わりにクラウドがいるじゃない?」
「(ちがうだろ)」
「……何の話だ」
「え、だって、似てるし」
興味ないね、という顔をしながら、別に離れた場所にいたわけでもないクラウドが、強制的に話題に巻き込まれて嫌な顔をする。
その頭上に視線を向けて、にこやかに、「ね」と首をかしげるセシルからしっぽを取り返し、疲れきった風情になったジタンが、さすがに我慢できないというように口を挟んだ。
「いや、意味ねえだろ。乗れないし。チョコボ臭くないし」
「少しは気がまぎれるかな、と思ったんだけど」
「ないない」
「中毒は中毒でも、クラウドはチョコボじゃなくて魔晄だしなー」
「ティーダ、話がある」
「じょ、冗談っスよ!?」
「あははは、クラウドも大分なじんできたね」
「(そういう問題か?)」
たいがいの場合、いつもなのだが。
ブリッツボールのように、てんてんてん、としかも予測不可能の方向へ転がっていく話題に珍しくついていかず、チョコボ臭のする重いため息をつくバッツに、何やらごそごそと服の隠しを漁っていたフリオニールが、そっと何かを差し出した。
「バッツ……これを」
「フリオニール?」
「そんなにお前がチョコボをほしがっていたなんて、知らなかったぞ。ずっと持っていて、いいんだ」
日焼けした手のひらに乗せられた、ごろんとした赤い宝石。透明度の高いその中に、丸まるように見える、黄色い姿はまさしく……
「チョ、チョコボ……!!」
ヤバいくらいの食いつきっぷりを見せて召喚石に頬ずりしていたバッツだが、3分間ほどそうした挙げ句、やがてまたがっくりとうなだれた。
「ど、どうしたんだバッツ!? ほら、チョコボだぞー」
「バッカだねー。召喚チョコボなんて、ブレイブ蹴りに来るときしか出てこないんだから、意味ないじゃん」
「だめだよオニオンくん。そんな本当のこと言っちゃ」
「だってティナ。こんなんだからこの人、相手のブレイブが9999のときにチョコボ召喚して笑われたりするんだよ。しかも直後にフレア−アルテマコンボ食らってるし」
「可哀想だからそれは内緒よって言ったのに……もう」
通りすがりの少年少女に容赦なく愉快な事実をバラされ、フリオニールもバッツの隣にしゃがみ込み、のばらに向かってぶつぶつとつぶやき始める。
「あれ、どうしたっスかフリオ。何かスコールみたいになってるっスよ」
「放っておいてくれんどうせオレののばらなんて、チョコボに蹴散らされればいいのさ……」
「なんだぁ? まだその話、続いてたのか〜?」
「もう、とっくに終わったと思ってたよ」
「どうすてフリオニールまでそんなことになっているんだ」
「(通り魔の犯行だな)」
さっきまですぐ横で、騎士+兵士対猿+KYのリアル鬼ごっこをやっていた4人組が、デジョントラップでも生成しそうなくらいに暗くなっている2人組み+壁に気づいてわらわら寄り、包囲するように見下ろした。
多分すべてを見ていたであろうスコールにセシルが視線を向ける。
「それで、何があったの? バッツはともかくフリオニールに」
「(フリオニールがバッツに渡した召喚石をタマネギがバカにした上にティナと一緒になって面白おかしいしっぱいをバラされて凹んでいるわけだが、そんなのオレには)別にたいしたことは」
「ああ、うん。それは確かに、たいしたことじゃないね」
「セシルっていつからサトリになってんだ?」
「スコールがサトラレなんじゃないっスか?」
「どっちでもいいね」
「それにしても重症だなぁ……さすがにこの世界には、チョコボはいないし」
「バッツがこんなんじゃ、オレも調子出ないぜ」
「(待て、それじゃ、あの宝箱を見つけてくる奴は何だ?)」
一応仲間たちの、心配する声など関係ねぇ、とばかりに一人で空気を暗くしていたバッツ(とフリオニール)だが、ふと。
「チョコボいないんじゃな〜。にしても、何でいないんスかね。チョコボイーターに喰われたわけでもあるまいし」
ティーダが言った台詞に、ギラリと目を輝かせた。
「……チョコボ、イーター?」
「バッツ?」
「お、復活したか?」
「(明らかに違うんだが)」
きらんきらんきらん、とおもむろに、バッツの頭上に3つの星が出現する。
いつでもゴブリンパンチが発動できる状態でゆらりと立ち上がり」、
「ティーダ、今、何て言った?」
「チョコボイーターが、どうかしたっスか? オレの世界(とこ)にいた、チョコボをエサにするモンスターでさ。街道のチョコボが食べられちゃって、大変だったんだよなー」
「ちょっと、待ったティーダ」
「お前、今それは」
「(このKY!)」
「……!」
シャキン、と武器生成の音がして、思わず(ティーダ以外)全員一歩引いた。
クラウドのバスターソードとスコールのガンブレード、という最も重い組み合わせの武器を手にしたバッツに、心の中でさらに一歩引く。
そのまま、夢遊病のようにどこぞへ歩き出すフリーダムな旅人に、ジタンがまず我に返った。
「待て待て待て、どこに行くんだバッツ!?」
「ちょっと、夢の終わりまで駆け抜けてくる」
「いやイミわかんねえし! そこ行ったって、いるのはティーダの親父くらいだから!」
「大丈夫、オレならたどりつけるさ」
「無理だろ、正気に返れ! どこからどこへ行く気だ!?」
「ハナからオレは、本気だよ! あのデジョンの海からなら、きっとザナルカンドの海につながって」
「ねえから! ちょ、誰か手伝えって」
「落ち着けバッツ。デジョンの向こうにあるのは、約束の地くらいだ」
「(それも違うだろう、このジャンキーが)」
「クラウド、それはセフィロスしかたどり着けないと思うよ」