一番と、唯一と。
ノミ蟲に目の前で挑発されてキレずにはいられないのと同様に。いや、それ以上に。
なにしろノミ蟲などよりも目の前の少年の方がずっと比重が大きいのだから、耐えるなどという真似ができるという甘い望みは、持ち得ない。
「お前を傷つけたくねえ。お前を壊したくねえ。――ああ、勿論逃がすこともしねえ。一生手放さなねえよ。一生お前だけだ。だから、お前も俺だけにしろ」
俺は、唯一、でなけりゃ許せねえ。
そう告げる静雄に、少年は表情を変えた。
花が満開となった、と言ってもいい笑顔に。
「――いいですね。いいですねそれ。僕だけですか。すごくいいです」
「おう。だから、お前も俺だけだ。いいだろ?」
「はい。いいです。それでいいです。それがいいです」
こくこくこく、と小動物か人形のように頷く少年に、男も笑みを見せた。少年とは対照的な肉食獣のような笑みだ。
「じゃあよ、今からお前は俺のモンで、俺はお前のモンだ。忘れんじゃねえぞ」
「はい。宜しくお願いします」
礼儀正しく頭を下げる獲物は、自ら望んで獣の手に堕ちてきた。予想もしていなかったことに。
しかしこれで、壊す必要もさらう必要も閉じ込める必要もなくなった。用意しておいた部屋も鎖も不要になったが、むしろ良かったと今ならば思える。
静雄は、ゆっくりと顔を上げた少年の感情の見えない仄青い瞳を見下ろしながら、恋の成就を悦んだ。