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こらぼでほすと 闖入5

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 常温のままになっている酒瓶を持ち上げて、湯飲みに少し入れてお湯で割る。風呂を上がって随分経っているニールが冷えないように、と、トダカは勧める。
「もう始まってるのかよ。ねーさん、俺のシチューは? 」
 シンとレイも風呂から上がってきて合流する。レイが、台所にさっさと向かって、温められていたシチューを器に持って運んでくる。
「白じゃないんですね? ママ。」
 レイが運んできたのは、アイリッシュシチューだ。刹那が帰っているから、ホワイトソースのシチューだろうと予想していた。
「レイ、こっちのほうが好きだろ? 刹那はオムライスとシチューにしたからさ。」
 刹那の好物は、ホワイトソースのかかったオムライスだ。もちろん、晩御飯は、それを作ったのだが、後から帰ってくるシンとレイのために温かいものも用意してくれたらしい。
「いつから動いてんだよ? 大丈夫か? ねーさん。」
「まあ、こんくらいはな。風呂掃除とか布団のセッティングは刹那がしてくれたから、あんまり動いてないぜ? シン。」
「雨だってーのっっ。あんま動くと熱出るだろ? ほどほどにしとけ。」
「してるって。おまえもハイネと似たこと言うようになってきたな? 」
「当たり前だろ? 寝込んだら、心配だから注意してんだよ。聞け、俺の話を。」
「はいはい、聞いてるよ。」
 掛け合い漫才のようなやりとりに、トダカもレイも笑っている。すっかりと、この会話も定番になっていて、トダカ家でやりとりしているものだ。家庭的な温かみというのが、ニールの傍にはあるから、こんなふうに言い合いもする。がつがつとシンはシチューを平らげると、アテにも手を出す。レイは、トダカの相伴で冷酒を飲んでいる。しばらくすると、ニールがふわっとした顔になってきた。
「ママ、そろそろ休んだほうがいいですよ? ほら、行きましょう。」
 湯飲みの三分の一ほどで、ニールは酔った。これなら、ぐっすりと寝られるだろうというトダカの計算だ。レイもシンも気付いていたから、放置していた。素面だと後片付けもすると言い張るからだ。
「・・・・レイ、片付け頼んでもいいか? 」
「はい、引き受けます。さあ、行きましょう。」
 レイが手を引いて、廊下に出る。ほよほよしているらしく大人しく、そのままニールも付いていく。それを見送って、シンは、トダカに、「とーさん、グッジョブッッ。」 と、サムズアップした。
「あれなら、明日も寝坊するだろう。だから、おまえたち、自力で朝は食べていきなさい。」
「了解。明日は三限だから、とーさんと一緒に起きる。」
「それならいいさ。どうせ、いろいろと下準備してあるだろうから。」
 味噌を溶けば味噌汁が、温めれば煮物が、冷蔵庫にはおひたしが、そういう準備はトダカ家に居てもしてくれている。だから、ニールがトダカ家に里帰りすると、シンとレイも泊まりに行く。まともな朝ごはんなんてものは、そういう時しか食べられないからだ。
「ねーさんが、家に居ると、とーさんがダメ人間になるっていうの、よくわかる。俺も、毎日、こんなだったら、ヤバイ。」
「あははは・・・そうだろ? ある意味、三蔵さんは凄いとは思うよ。この世話をされてて、ダメ人間になってないんだからさ。」
「いや、なってるだろ? ねーさんがいないと、即不機嫌じゃんか。」
「でも、寝込んでる娘さんに強要しないし、療養してる時に、うちに来たりしないだろ? ダメ人間は、うちに取り戻しに来ると思うけどね。」
 ああ、そうか、と、シンも納得する。確かに、居れば、散々に世話を焼かせているが、居なければ不機嫌にはなっても、帰れとかいう連絡はないし、具合が悪くて寝込んでいると、三蔵が世話をしているというのも、ニールに聞いたことがある。そういう意味では、完全なダメ人間ではない。
「三蔵さんは、世話をされているんじゃなくて、させているって感覚なんだろうな。」
「それ、わかるな。」
 ふたりで顔を見合わせて爆笑したら、レイが戻って来てびっくりしていた。事情を説明すると、うんうんとレイも頷く。
「トダカさん、もし、俺のママが三蔵さんの女房に相応しいと認定されたら、もしかして、三蔵さんが本山へ帰ることになったら連れて行かれてしまうんでしょうか? 」
 レイが気になったのは、そこだ。今のところは、三蔵が出張という形で本山へ戻っているが、本格的に、あちらに席を移すなんてことになったら、そういうことになるんじゃないだろうか、と、気になった。できれば、ニールには、こちらに居て欲しいと思っている。いつか、レイもプラントに帰る日は来るだろうが、ここなら休暇ごとに遊びに来られる。だが、本山なんて辺境地に移動されてしまうと、逢いに行くのも厄介だ。
「今のところは大丈夫だろう。ニールは移動できないんだし、それに、三蔵さんは悟空君が、こちらのアカデミーを卒業するまでは動くつもりはないはずだ。」
「・・・そうでした。ママの身体が治らない限り、ここからは移動できませんね。」
「てか、どうにかなって欲しいんだけどさ。でも、治ったら、うちのねーさん、ほいほいと組織に戻りそうで、それはそれで、俺、気になるぜ、レイ。」
 負のGN粒子を浴びて引き起こされている遺伝子異常が広がれば、ニールの命も危険になる。その治療方法は、まだ確立されていなくて、本山の漢方薬で、少し持ち直した。とはいえ、徐々に、それは広がっていくのは阻止できないのが現状だ。シンが、がぼっとレイの酒を横取りして煽る。
「こればっかりはね。どうにもならないんだが・・・できるだけ、無理させないのが、私たちにできることだよ、シン。」
「わかってる。」
「もし、ママが認定されたら、もっと強力な漢方薬というのを頂けないんでしょうか。それなら、俺は認定されてもいい。」
「さあねぇーそこは、どうなんだろう。どんな思惑があるのか、そのうち、三蔵さんの口は割らせてみるさ。」
 わざわざ、三蔵の上司様ご一行が来たということ自体が、まず、不可思議なことだ。女房を拝みに来たというのが、最大の目的ではないというが、それが目的になっているのもおかしいといえば、おかしい。妻帯が許されないということなら、こういう友好的なことではないはずだし、三蔵が嫁を貰ったということのお祝いというのとも違うようだった。今すぐに、問い質しても、三蔵は答えないだろう。そのうち、折を見て、トダカも聞いてみようと思っている。神仙界からの来訪なんてものは、在り得ないはずのことだからだ。

作品名:こらぼでほすと 闖入5 作家名:篠義