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なつおみはる
なつおみはる
novelistID. 23650
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On Your Mark

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「ま、いんじゃね?あれが『食っていく奴』と『そうでない奴』の実力の差だと思うのさ。お前のサッカーへの情熱は伊達じゃねえよ」
「そうか…」
スタートラインでの気持ちを反芻する。あれが覚悟というもの。周囲に刺激されたとはいえ、自分自身の心が決めたこと。
「後輩も気が済んだみたいだしさ。いい励みにもなるさ」
「…」
「まあオレはあと4年間は親の金で陸上しちゃうから、『そうでない奴』だな。すまんねお気楽で!」
はっはっは、と芹沢は唾を飛ばした。

さて、杉本の件だが、どうなったかというと。C組は優勝したものの、なぜだか芹沢は杉本をデートには誘わなかった(しかも彼女ができたらしい、こいつも謎)。そして、井沢先輩や翼さんのことも交えて、しろもどろになりながら(何度も言うが、範疇を越えた話はわからない…)切り出した話に、
「そんなことしてませんよ、私」
「だってお前、カラダあわないとかなんとか」
「や、先輩、アタマの中、まる見えですよ。やらしいですね」
「なっ」
このおんなはよ…。転んでいたサッカーボールを手に取る。秋が真っ盛りになれば夕方が来るのも早い。すっかり西日が落ちて、薄紫の空に一番星もうっすら輝いている。
「私、背が高い人苦手なんです」
ボール磨き用タオルの泥をぱんぱんと払い、いたずらっぽい笑みで先を行く杉本。あーそうですか。小悪魔め!
毒づいた心のコエがばれたのか、小悪魔は踵を再び返した。ちょうど肩くらいの髪がぱっと舞った。ちょっと引いたオレに近づいて、
「でもね、すぐ届く距離ならいいかなって思ってるんです」
「…!」
やわらかい唇が押し付けられすぐに離れた。一瞬にして、オレ、がっと全身が熱くなった。取り落としたボールが、転がってゆく。
「…私、ちっちゃいですから」
「お、おま」
言葉にならないオレに、踵をおろしてくすっと一言。
「ちょうどいいくらいですね。カラダあいそうです」
くるくるっと見つめて、言葉を続ける。そして目を伏せる。冗談めいた語尾が、なんだか、かすれて力がない。杉本?
「もう、冬の国立で終わりなんですね…」
泣いてる?
「…」
「誰も、誰も、南葛からいなくなっちゃう。翼先輩も岬先輩も石崎先輩も中沢先輩だってゆかり先輩だって。新田先輩がいなくなるなら、私もサッカーを辞めようと思ってました」
「…」
「でも辞めませんよ、私は辞めないって先輩が走ってるの見て思ったんです」
「…」
「私、バカだから、マネ―ジャーは、本気じゃなかった。でも、いろんな大会を観てサッカーはほんと好きだって思った。中沢先輩みたいに、世話焼くのとか得意じゃないし、気も回らないんですよ。すごい人が活躍してるからって、好きになって、便乗して表面でやってただけ。だから、誰もいなくなるってぽっかり穴があく感じで。…先輩に色々楽しんでやってみたらいいなんて言ったけど、そういう風にできない私が、そうしたかっただけ。でも、思いました。絶対、辞めません」
きっとこいつも色々かなわないことがあったんだろうな、そしてそのたび気持ちを立て直してたんだな。そう思うと自然に手が伸びた。タオルを持つ手を取る。小さなやわらかい手。
「…後ろでよく動いてくれてるの、人に聞いて、最近わかったさ。ありがとな。あとさ…杉本は、物おじしないし、元気が取り柄だろ」
「…」
「杉本にしかない、いいところだろ。そういうマネージャーがいるからオレら、国立に行けたんだ。冬も、きっと頑張れる。どんな形でも、サッカーは辞めないでいろよ」
いつものオレじゃないみたいな言葉が出て、はっとした。照れくさい。オレらしくない。すっと手を引っ込めた。でも、杉本もほかの誰でもなく、自分にしかできないことを探してるんだろ。その道を進めば、何かがあるって知ったんだろ。それはすごく理解できた。
「先輩、やっぱすごいですね」
「…何が」
「考えてて動けないなって思ってる時でも、いざとなったらやってのけるとこ。さすがキャプテン」
いつものような抗いたい気持ちは起こらなかった。…涙目が見つめてる。その後の言葉はなかったけど、何か、取り戻したようだった。こいつの唐突なとこは、ホントわかんないけど、悶々としてたことがやけに同じようなもののような気がして、安心した。そして、どちらともなくもう一度、手を繋いでみた。冬に向かう星空が暖かく優しく瞬いていた。
作品名:On Your Mark 作家名:なつおみはる