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なつおみはる
なつおみはる
novelistID. 23650
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On Your Mark

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芹沢は両手を目の前に出して女の体を形作ってみせた。何考えてんだアホ。そんなオレの表情に気付いてないのか芹沢は続ける。
「フリーらしいし、マネの中では結構献身的だろ。なんで陸上じゃあねえのかな?」
「そうか?」
フリーなのかはわかんねえよって言いたくなったがやめといた。井沢先輩のことを出して、水は差すまい。しかも、献身的だなんて、あまり考えたことがないのが正直な感想だった。フツーにボール磨きし、フツーにポール替わりをし、レモンのはつみつ砂糖漬けは中沢先輩のレシピだ。きゃいきゃい言ってることは多い。声もデカく、フィールドを走ってたって聞こえるような馬鹿でかい口だ。笑いが込み上げる。献身的とは、そりゃー勘違いだ。
「いっとくが世話焼きじゃねーぞ、マネージャーは」
「?」
「元気はいっぱいだけどな、応援にかけてはな。でもマネージャーとしては当たり前のメニューなんじゃないのかな」
誤解を取り除くように伝える。が、芹沢は首を傾げ、
「そうか?いつも心配してるぜ、お前のこと」
「はあ?心配?」
意外なセリフに驚くオレ。心配されるようなことあったか?杉本に?
「いつ心配してたのさ?」
「いつってよく聞かれるさ、テスト中はどこに行ったとか、お前がユースから追い出された時もしょっちゅうクラスに来てたぜ。キャプテンが落ち込んでてどうのこうのって。メンバーのことはちゃんと把握しとかないとって、さ」
「…」
「献身的じゃないか~。あーゆー姿勢は、さすがマネージャーだよな。陸上でもいいのにな」
「…」
面と向かって、心配されたことは、ない。いつもかんけーのないことを言ってきゃいきゃいしてる姿しか思い浮かばない…。青空が高い。まぶしい太陽が遠く杉本の姿を浮き上がらせた。
「高校生活最後のデートくらい、何があってもお許しください。サッカー部キャプテン」
ははははと上機嫌な芹沢。やっぱ何考えてんだ。…しっかし、ますますわけがわからんぜ。サイダーを飲みながら、オレは眉をひそめた。

100mを含め陸上競技は体育祭の終盤にあたる。生徒数が多いため、出る競技は一人当たりそんなにないが、応援にはどこに行こうが熱が入っている。競技は同時進行なので、皆あっちへ行きこっちへ行き落ち着かない。午前中はフットサル(審判)に出て、バレー(選手)もやってのけた。バレーはうちのC組は準優勝だ。いうことなしだろ。
400m走、200m走があり、いよいよ迎えた100m走。女子が走り、一息ついたところで男子の競技だ。カラダは十分温まってるし、ただ、走ることに集中する、ボールはない世界。一直線に伸びるレーンと、その向こうにあるゴールだけ。後ろから芹沢が肩の力を抜けと云った。どうやら力んでいるように見えるらしかった。
「…ただ走るだけなんだよな」
「そうさ。でも今までの練習を最大限に…ってそれはサッカーでも同じだろ。トラックの中では無心になるんだ」
「そうだな」
…トラックの中では無心になるんだ。言葉を反芻しながら力を抜いたジャンプをする。砂埃が軽く立つ。そんな落ち着かないオレをじっと芹沢が見つめ、予期せぬことを言い始めた。
「いいこと教えてやるよ。お前の体育ん時の走りをみて、南葛高の記録トップを虎視眈々と狙ってるやつは多いぜ」
今までの言動とは違い、なんだか険があるとオレは感じた。間違いではなかった。
「…」
「負かしてやりたい気持ちでいっぱいさ。しかも、サッカー部なんて入りやがってさ」
最後のセリフにドキッとする。芹沢が鋭い目で見つめている。
サッカー部に入りやがってさあ?オレは言葉を絞り出す。
「…オレが、ここで負けたらそういう奴ら皆、やってやったぜと、思うのか」
「そうさ、なんせお前、高校陸上の最高記録に近いからな。いい後輩の練習台だな。まんまと走ってくれて助かる」
「お前…」
「いろんな才能、持ちすぎなんだよ。10秒台とかさ」
「…フツー100mって何秒なんだ?」
平静を装い何気なく芹沢に尋ねてみる。お前、ほんとサッカーバカ?10秒台だよ日本では、という返答が返ってきた。
「世界はボルトの9秒台だぜ」
ふふんってな感じで、芹沢が離れ際に呟いた。やれるもんならやってみせろよ、そんな挑発的な態度にもとれた。今までとは違う、芹沢の態度だった。でも、オレ、なぜか、燃えてきた。陸上の「り」の字さえわかんないけど。だけど、ふつふつと、溶岩が湧き出るように熱くなる。同時に、腹を決めるようなぐっとしたものが体を押し上げてくる。陸上部員が第4レーンに案内する。各人がそれぞれ配置につく。並んだのは、全然知らない奴らばかりだ。さっきのハナシから色々予測すると、並んでるやつらは陸上部員なんだろう。この日のために、この一戦の為に、練習したんだろうか、彼らは。サッカーを選んだオレを打ち負かすために?一瞥したあと、ふと遠く観客席の方で祈るような面持ちで杉本が見つめているのに気付いた。
杉本…。
審判代わりの陸上部員がピストルをかかげる。スタートライン手前に合わせ手をつき屈む。土と埃のついたスパイク…サッカーのスパイクが視界に入る。心臓の音が耳元で聞こえるようだ。

…オレは、オレは絶対に負けない。この足で、ボールを追うことに決めたんだ。

「位置について」
On your mark…
「用意」
Set…

号砲が秋の空高く鳴り響く。瞬間、オレは渾身の力をこめて、後ろのスターティングブロックを蹴った。スパイクを通しての地面を踏む実感と、視界に続く白線。あまりよく覚えていないけれど、その先で見たもの。不思議に、蜃気楼のように、それは誰かが出したパスボールを必死で追い求める自分の錯覚だった。…オレは、必死にゴールのテープを目指した。芹沢が云うところの「無心」から見えた幻だったのかもしれない…。

 ゴールについて空を仰いだ。空の青が鮮やかに目に沁みた。Tシャツで汗をぬぐいながら歩く。前に誰かいたかわからない。自分の位置が分からない。判定は?そんな混沌とした中、杉本が走って近づいて来る。赤いウエアがやけに新鮮だな、と単純に思った。近づいて、にこっと微笑んだだけでも、結果は明らかだった。オレは笑みを返してみせた。

「で、なんでそうまどろっこしくなるわけよ」
芹沢はけたけたと笑っている。オレは今さらながら嵌められた気分でいっぱいだ。
「やー、後輩が妙に殺気立ってて。オレに矛先が向いたわけ」
「なにがあ?殺気立つって。意味がわかんね」
じろりと一瞥する。
「おおコエ…、自慢の八重歯で噛み殺されそうだ。ま、聞け。主将としては、お前を3年間、野放しにすることになるわけよ。それはさ、お前のサッカーに対する情熱を知ってるからスカウトしてもスカウトどまりだったのだよ」
「はあ?」
「皆インターハイどころか、県大会も満足に残れないんだぜ。ところがどっこい。10秒台が己の実力を無視してボールを追っていたら、お前の事情を知らん奴あ、当然むかつくっていうか。オレも昔はムカついてたけど。ま、嫉妬だわな」
「…」
「血の気が多い、ライバル心旺盛な戦いたい気分の後輩を納得させるには、これがいいかなって思ってさ。JLに行くって聞いて尚更だったみたいだ」
「…」
作品名:On Your Mark 作家名:なつおみはる