舞花~第一章~
―二つが一つ―
箔と藍の案内でロイとリザはフラウズ学院へと向かった。
門をくぐり、建物の中へと入っていく。
花の庭に比べるとこちら随分と質素な造りになっていた。
花を育てるのにお金が必要なのは本当のようだ。
最上階にある学院長室へ到着した。
「失礼します。」
入るとそこには大きいデスクと背もたれの大きいイスがあった。
キキキという音をたてて、イスがこちらを向く。
どこだ?と一瞬探してしまったのは致し方ない。
そこには小さいお婆さんが居た。
「ようこそ、若造。」
「フラウズ学院、学院長の婆さ・・ピナコ。」
「よろしくな。」
「・・・・・・よろしくお願いします。」
柄にもなくロイは少し緊張した。
小さいながら人の見る目を持つ人だと感じたからだった。
咳払いをひとつしてピナコは本題へ入った。
「箔をもらってくれるそうだな。」
「はい。」
「コイツは高いぞ。」
「婆さんっ・・」
「構いません。」
それはロイの本心だった。
あの場ではあぁ言うしかないと思ったのも確かだが。
箔に興味があった。
箔ならば、と思った。
「良い瞳だね。」
「・・・・・・・。」
「よし、良いだろう。」
「ありがとうございます。」
「連れてきな。」
「・・・・はい、・・え?」
「箔は芸が出来ない。芸の出来ない花に価値は無いさ。」
「・・・・・・・・・・。」
「ですが、・・」
「箔を頼むよ。」
「・・・分かりました。」
礼を言い、ロイは深く頭を下げる。
箔も一緒に頭を下げる。
そして背中を向ける。
すると、ピナコは小さい声で感謝の言葉を口にした。
「ありがとうよ。」
ピナコの部屋を後にすると、箔はフワリと笑う。
「ツイてる。」
「何がだ。」
「こんな良い花をタダで手に入れた。」
「・・・・そうだな。」
「それに、花主になるには審査があるんだ。」
「・・聞いてないぞ。」
「ロイは合格した。良かった。」
「そうか。」
なら、良かったとロイはホッとする。
「俺もツイてたな。」
「・・・良かったのか?」
私で・・と言いかけるが、
キョトンとした箔の顔を見て止める。
きっと幸せにしてみせよう――
「・・・いや、改めてよろしく頼むよ。」
「さっきのもっかいやる?」
「・・・結構だ。」
無邪気に笑う箔はとてもそんな苦労をしてきたようには見えない。
それに芸が出来ない体というだけでとても悔しいだろうに、とロイは思う。
この子を守ってやろう、そう思った。
それから藍が泣くのをなんとかなだめ、
箔はロイと共にリザの運転する車に乗り込みフラウズ学院を後にした。
藍は車が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
「素直で良い子だな。」
「まだ蕾で残念だったね。」
「そういう意味じゃないんだが、」
「どーだか。」
ロイと箔の二人の生活が始まる――
辛いことも少なからず・・・いや、沢山あるんだろう。
それでも、二人ならば越えていける気がした。
楽しい日々ばかりを望まない。
ふとした幸せがあればそれでいい・・
まだまだ物語は始まったばかり。
end