舞花~第一章~
グレイグ中将に寄り添っていた花が乱暴に箔を華舞台へと上げさせる。
無理矢理押された箔はよろめき転んでしまった。
そして左手で持っていた剣が滑って華舞台の中央に行ってしまった。
箔は松葉杖に頼らずに必死に立ち上がる。
そして左足を引きずりながら中央へ向かった。
足元に落ちている剣を震える手で掴み取る。
「箔様・・・・・」
箔はその場に座り込む。
そしてゆっくりと立ち膝をする。
そして動かない右腕をそのままに左手で剣を持ち、必死に舞う。
立っていない分、剣の先が床にぶつかってしまう。
それでも箔は必死に動かした。
「地に落ちたものだな。」
グレイグ中将の声が響く。
その声は嫌でも箔の耳に届き、動きを奪った。
それに合わせロイが華舞台に居る箔へと手を差し伸べた。
「見事だったよ。」
「・・・・・ぇ・・」
「さぁ、来なさい。」
「・・・なに言って・・」
箔が突然のロイの手に戸惑っていると、グレイグ中将が大声をあげた。
「何をしているんだ!!!!!!」
「これはグレイグ中将、お久しぶりでございます。」
「貴様は・・ロイ・マスタング!!」
「今夜はこの辺で失礼致します。さぁ、箔。」
ロイはもう一度、箔の方を振り返り手を差し出す。
「何を言ってるんだ!!!?その花はっ・・」
「私の花でございます。」
「・・なっ・・・・・!!!!??」
「「「「「・・・・!!!???」」」」」
グレイグ中将だけでなく、
箔や藍、リザや会場に居る全員が驚きを隠せなかった。
「さぁ、箔行こう。」
「・・・・俺の・・・花主・・?」
「そうだよ。」
箔がおそるおそる手を伸ばす。
箔の耳には叫ぶグレイグ中将の声など届かなかった。
ただ、目の前の手に緊張して、ドクドクという自分の心臓の音と、
『箔』と呼ぶロイの声だけが聞こえていた。
弱弱しく伸ばされた手をギュッと握り締める。
そして自分の下へ引き連れる。
逆らうことなく胸の中に納まったぬくもりにロイの心も少しばかり温かくなった。
そしてグレイグ中将に頭を下げると目も合わすことなくその場を立ち去る。
藍とリザも少し遅れて追った。
「・・・私の名前はロイ・マスタングだ。」
「・・・どうして・・?」
「君の剣舞が最高だったからだ。」
「・・・・・・。」
「ロイと呼んでくれて構わない。」
「・・・・ろ・・ぃ・・」
「箔様っっ!!!!!」
追いついた藍が箔に抱きつく。
その後ろからリザも現れた。
「箔様・・・良かった・・」
「藍・・・大丈夫だよ。」
「・・・無茶しないで下さい・・アイツに近寄らないで下さい!!」
「ごめん。」
「ばか箔様。」
「ごめん。」
「本当に花を買うとは思いませんでした。」
「いや、まだ正確には買っていないんだが。」
「嘘ではないのでしょう?」
「・・あぁ。」
「また問題が増えます。」
「・・・はは、すまない。」
「あの花には何があったんですか?」
「それは追々話す。」
「分かりました。」
藍と話していた箔がロイの方に振り向く。
ロイは左手を差し出す。
箔もそれに応える。
「これからよろしく頼むよ。」
箔はロイの手を握ったまま、片方の膝を地面につける。
そしてロイの手を額に当てる。
「この花の舞、花主様のために。
この花の命、花主様のために。この花のすべてを。」
「・・・なっ・・・」
ロイは突然のことに慌てる。
これは花が花主に出会った時にするものだった。
「いっいいから、立ちなさい。」
ロイは照れていた。
そんな様子がおかしくて、箔も藍もリザも3人で笑った。
「・・・・まったく、」