君は知らない。
どう伝えれば、ちゃんと伝わるのか、わからない。
だいたい大概のことは上手に出来る自信がある。
なのに、帝人くんのことになると何一つうまくいかない。
(やっぱり、疑われてる…)
帝人くんが俺の告白を本気にしてくれたなんて思ってない。
それは帝人くんが『俺』という人物をよく知っているから。
まぁいい。
ゆっくり信じさせてあげる。
好きな子には寛大になれる自分に苦笑する。
・・・何が寛大になれる、んだか。
逃げた帝人くんを追って、問い詰めてしまった。
もう一応お付き合いしてから2か月が経つんだから、そろそろ信用してくれても良いじゃないか。
とはいえ、優しくすれば、愛を囁けば、すればするほど嘘くさいのには自分でも自覚している。
これでも帝人くんの嫌がるようなことを無理強いしないように必死なんだけどねぇ。
触れたい。
帝人くんの全てを知りたい。
2か月以上も手を出さないなんて奇跡に近い。
好きだから余計に余裕なんてない。
がっつかないように、かなり必死なのに。
なんで、こう、
『キス、しませんか?』
煽るかなぁ、君は。
俺の服を握る手が震えてる。
涙を堪えるような瞳が俺の下半身を直撃して、キスだけじゃ絶対終わらない。
無言で固まる俺に帝人くんは諦めたように笑った。
「…出来ないっ、ですよね。」
そうだねぇ、帝人くんを思えば今はちょっと待ってほしい。
自分で自分を抑えるのに精いっぱいなんだ。
「昨日の人が、本命なんですか?」
・・・・はぃ?
「見たんです、僕…。」
帝人くんが涙目で俺をジトっと見る。
今の俺にその顔は頂けない。
ああ、くそ。鳴かせたい。
と、そうじゃなくて…昨日?
何かあったかな、と、思考をめぐらした。
「女の人と、キスしてたじゃないですか。」
俺が答えにたどり着く前に、帝人くんが答えをくれた。
そう言われれば確かに。
前に仕事で関わった相手だったか、無理やり唇をくっつけてきたから相手が女性だということも忘れて突き飛ばしてしまった。
今の俺は帝人くんに俺が持てるすべての優しさを傾けているため、他にはいつも以上厳しい。
ギャーギャー喚かれたが、殴らなかっただけ褒めてほしい。
・・・その場面を見て勘違いするってのも、なかなか帝人くんらしい。
「あのねぇ、あれは…。」
「っ、どうせ暇つぶし、にも、ならないような僕にはっ、出来ない、ですよね。」
ぅくっ、と、とうとう嗚咽を始めた帝人くんのその言葉に何かがプツンと切れた。
俺がこの2か月間、どれだけ我慢したか、帝人くんは知らない。
俺の言葉を疑う帝人くんに、信じてほしくて、どれだけ必死だったか…
君は知らない。
帝人くんが俺を信じないのは、自業自得だと思った。
だから、俺なりに頑張ったんだ。
でも、何が、『暇つぶし』だ。
俺が、どれだけ君を想ってるのか知りもしない、その言葉はちょっと痛過ぎた。
ガツンッと歯と歯がぶつかる。
痛みはあったけど、その唇を夢中で貪った。
口紅の味がしない、少し乾いたその唇が俺を魅了する。
あーあ、もう駄目だこれは。
止まらない。
帝人くんが驚いたように声を上げたけど、それも全て飲み込む。
そのまま勢いでベッドに押し倒した。
やっと唇を離して、帝人くんを見下ろすと、肩で息をして何が起きたのかわからないとでも言うように俺を見ていた。
俺はにっこりと笑って言い放つ。
「俺が恐ろしい人間だということは、君のほうがよく知ってるでしょう?」
以後、暗転。