V.D.2.14.to 花 from 主
呆れ返った表情の相棒だったが、目の前の甘い匂いには敵わなかったらしい。つ、と顎を突き出してサクリとかじっていった。
「うん…美味い」
咀嚼しながらしみじみと呟く。飲み込んだのを見計らって二口目、三口目と入れてやったらその度に顔がほころんでいくのが面白い。
空になった手を叩きながらテーブルに戻って、新しいクッキーを湯煎チョコに浸け―――
「…………。」
ちょっと思い立って、クッキーをヘラみたいに立ててチョコをごっそりすくい上げた。
「相棒ーぉ、口、口」
「もういいよ、後で食べ―――」
「うわ、垂れる垂れる」
「え、わ――――」
平らなクッキーに無理矢理乗せたチョコが端から垂れそうになっている。雫を結ぶ前に慌てて相棒が食いついた。
クッキーの周りにもたっぷりチョコをまぶしたから、相棒の口の端にもチョコが付いて。パキッとクッキーが割れると同時に、身を乗り出して拭い去られる前のチョコを舐めとった。
「!――――ッ」
制止がかかる前にもう一度、今度は唇へ。頑なに開いてはくれなかったから(今はクッキーが入ってるし)閉じたままの唇を勝手に食んだ。
(あー……チョコの味)
チョコ味のキスとか、ちょぉっとやってみたかったのだ。理想は相棒がチョコをくわえて『アーン』してくれればいい…けど、やってくれるとも思えないから。
「…………ン、陽介っ…!」
片手がクッキーでふさがれてるせいで、相棒に押されてあっさり引きはがされてしまった。
「…赤くなってる」
「うるさい……!」
指摘したらそっぽを向いて口をぐいっと拭ってしまった。あーあ、終わりかぁ、もったいね。
「…いいから、大人しく待ってろ」
「だってバレンタインだしさー。欲しくなるじゃん」
「………後で、ちゃんとやるから」
それで言うことは終わりとばかりに、相棒はチョコケーキ作りに戻ってしまった。
……『欲しい』のはチョコじゃなくて、お前なんだけど。
なんとなく、本音を言うタイミングを逃した。腕まくりをした手が泡立て器とボールを掴むのをぼんやり眺めてたら、ずいっとそれが目の前に迫って
「せっかくだから手伝って」
「そうきましたか…」
早く食いたいのは事実だから、素直に泡立てセットを受け取った……何気に重労働を押し付けたなコイツ。気合い入れついでに相棒に念を押しておく。
「『後でやる』つった言葉通り、キッチリ旨いチョコ貰うからな」
「…え?」
「いや、え?って。お前が言ったんじゃん」
「―――――ぁ」
また失言だったと相棒が口を押さえる。向こうを向いても、横から耳が赤く染まってんのがわかって……え?何、照れるようなこと?
「だって、後でやるからっつったよな?チョコのことじゃねぇの」
「チョコだ。チョコのことだ」
……つまり違うことなワケ?何だろ、キスを中断して後でちゃんとやるからって何を………
―――キスを、中断して。
「あ」
もしかして。
[チョコを]後で『あげる』……って意味じゃなくて、[キスを]後で『してやる』………ってコト?
「………あーいぼっ」
「言っておくけ―――ッ」
相棒の振り向きざまに顔を寄せて、ちゅ、と触れるだけ。今は。
「続きは、『後で』、な?」
「〜〜〜〜〜っ陽介!」
「さー、張り切って泡立てますかー」
そんな確約貰ったら気合いの一つや二つ見事に入るってモノ。シャカシャカ音をたてて泡立て器を動かしながら考える。
―――チョコと相棒、どっちが甘いかね?
END
作品名:V.D.2.14.to 花 from 主 作家名:えるい